マリンシュガーブルー

 翌日からも美鈴は、いままでどおりに店の仕事をした。
 梅雨が明け、彼と別れてから一週間が経っていた。

「美鈴さん、四番テーブルのランチできたよ」
「はい、店長」

 弟も何も言わなかった。でも義妹の様子が、美鈴を心配するものに変わっていた。
 弟夫妻のふたりは、あの晩、きっととても心配して待っていてくれたのだろう。

 雨降りの季節が終わり、暑い陽射しが入り込む夏本番を迎えていた。
 湿気ていた空気が爽やかになり、閉店前のレジ締めのお供にはオレンジティーを作るようになった。

 千円札を数えている時、ふと潮の匂いがすると、美鈴は手元を止めてしまう。灯りを落とした店のガラスドアへ視線を馳せる。船のライトがちらつく港が向こうに見えるだけ。

 連絡先もない人を、もうこの店には訪ねてこない人を待っている。でも、彼が連れて行ってくれたマンションを訪ねると、借り手を求めるチラシが貼ってあった。

 あのあと引き払ってしまったようだった。それから不安に苛むようになる。

 やはりあれきりだった? 背中に寅のある男は女渡りも慣れていて、朴訥なふりして綺麗に遊んで別れられる人だった?
 私の身体の中に残していった、あなたの痕。それはどうなるの……。

 もし、妊娠していたら……。
 
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