マリンシュガーブルー
そうして不安になるのは当たり前であって、でも美鈴には不思議な感情も芽生えていた。
もし妊娠していたら。あの人を捜せる? 引き留められる?
打算的かもしれないけれど、謎ばかりの彼を捕まえられるのではないかという気持ちがあった。
店締めを終えて、弟と二階の自宅に戻る。
弟がお風呂に入っている時だった。女二人だけになったのを見計らったようにして、リビングでくつろいでニュースを見ている美鈴に、義妹の莉子が話しかけてきた。
「すずちゃん、あの……聞いてもいい?」
ソファーでオレンジティーの残りを味わっていた美鈴も、ああ彼のことだとすぐにわかった。
「なに、莉子ちゃん」
「私は一目も見たことない男性だけれど……。その人、どうしちゃったの」
答えにくかった。また会いに来ると約束したから安心してと言えば、姉がヤクザの男とこれからも関係していくことを示唆することになる。それをヤクザに店を荒らされ怒りを見せていた弟夫妻が許してくれるわけがない。あれっきりだと言えば、安心してくれるのだろう。その答を聞きたいに違いない。
でも美鈴は彼が会いに来てくれると信じているから……。その気持ちを言えない。
ほんわりおっとりしているお嬢様ふうの可愛い義妹が、泣きそうな顔で美鈴を見ているのが辛い。
「すずちゃん。宗佑もね、ヤクザでなければ、ほんとうに良さそうな男だったと凄く惜しんでいたよ」
「そう……」
「かまわないよ、私。彼が会いに来てくれたら、すずちゃん、私達のことはかまわないから、彼についていっちゃいなよ」
義妹の意外な言葉に、美鈴は驚き固まった。