マリンシュガーブルー

「すずちゃんが、後先考えられないほどに投げ出しちゃった人でしょ。気持ちが本物ってことなんでしょ。東京に行っちゃう元カレについていけなかったのは、それほどの気持ちが、最初からすずちゃんになかった。それだけだよ。なのに、あんな危ない男とわかっていても、すずちゃん、追いかけて行っちゃったんだよ。私達はなんとかやれるから、連絡先だけ教えておいてくれたらいいから、宗ちゃんは私が見ているから、すずちゃんも自分のことだけ考えて」

「莉子ちゃん……」

「わかるんだ、私。だって、私も、ずっと育った土地を出てもいいって思えるほどだったんだもの。いまはこの港の街が好き。大好き。私のあの時の気持ち、親に止められて諦めていたら、こんなふうにはならなかったし、泣いていたと思う。だから、ね。宗ちゃんには黙っておくから、ね」

 今度は美鈴が泣きたくなってくる。ほんとうに弟はいい子を見つけたなと思う。一緒に暮らせる女の子見つけてくれたなと思っている。

「ありがとう、莉子ちゃん。うん、会えた時に決めるね」

 莉子ちゃんが言ってくれたこともちゃんと胸の中に留めて、考えるね。そう伝えると、少しはほっとしてくれたようだった。

 だからって。もうすぐ子供が産まれるのに。慣れていない土地に来たお嬢様と、経営にいっぱいいっぱいの夫では、子育てですれ違わないか心配。

 そう考えると、ほんとうに『後先考えず』だった。自分の気持ちに正直に突っ走って彼にぶつかったこと、愛される満足は得た。でも、周囲の迷惑は……。それでも送り出してくれた弟、自分のことを考えてと言ってくれる義妹。やるせなかった。

< 69 / 110 >

この作品をシェア

pagetop