マリンシュガーブルー
義妹は妊娠中、安定期に入ったとはいえ、大きなお腹なので二階の自宅で安静にしてもらっている。もとは彼女もこのお店の接客を手伝っていたので、退屈そうだった。

 この店は弟の自宅も兼ねて建てられた。いま美鈴もお世話になって、一緒に暮らしている。

「店を造る時に二階に自宅をと安易に考えたけれど、嫁が妊娠してお腹が大きくなって一人で階段を降りる姿を見ちゃうと、平屋にしておけば良かったかな……なんて」

 弟が溜め息をつく。

「心配なら様子を見ておいでよ。お客様がいらしたら、すぐに呼ぶから。莉子ちゃんも旦那が様子を見に来てくれただけで、ほっとすると思うんだよね。すぐに出掛けられそうだったら、一緒に階段を下りて車に乗るまでついていってあげなよ」
「うん、行ってくる」

 コック帽を脱いだ宗佑がすっとんでいく。

 東京で出会ったふたり。夫の田舎にまでついてきてくれた東京育ちのお嬢さんだった義妹。
 弟夫妻と小姑ではあるが、仲良く暮らしていた。美鈴と宗佑の姉弟に両親はもういない。

 この店は、三年前に他界した母からの遺産を相続して建てたものだった。

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