マリンシュガーブルー
「四課という部署がどのようなものかご存じですか」

 尊に聞かれ、美鈴はコップを持ったまま首を傾げた。

「ドラマに出てくる刑事さんのイメージしかなくて、申し訳ありません」
「暴力団などを取り締まる課です」

 そう聞いて、美鈴ははっとする。そのまま、気持ちよく飲み干そうとしていたコップをテーブルに置いてしまう。

「だから、だったのですね」

 だから。暴力団が取引をしているそこに彼がいた。

「尊さんも、ふりをしなくてはならなかったのですね」

「無闇に接触をすることはありませんし、彼等の組織に潜入することもありません。ですが、一般人に運び屋をさせているとの裏付けをとる捜査上、彼等のテリトリーにそれとなく入りやすくするため、或いは疑われないために、あの姿になるよう上から言われました。ここ半年ですかね、後輩のバディの男とあのような風貌に整えていました」

 そう話してくれる彼が、美鈴の目の前で、急に爽やかな青いシャツのボタンを開け始める。

 ひとつ、ふたつみっつ、よっつと開け、そっと胸元を開いてくれる。あの夜、美鈴も遅くまで貪った筋肉質な胸が現れる。でも、その素肌はもうなにもない素肌、『寅』がいない。

「寅はもういません」

 ちょっとだけ、美鈴の目に涙が滲む。彼が入れ墨を持っていたヤクザではないと安堵したからではない。ヤクザでも愛したい、あの寅にすべてを捧げても良いと思う美鈴をじっと見届けくれたのはあの寅だと思っていたから。その寅ちゃんにもう会えないという寂しさからだった。
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