マリンシュガーブルー
「やっと先週、あの絵を消すことができたんです。特殊な染料だったので専門の業者に頼んで描いてもらい消してもらい。いまどきのヤクザは入れ墨はしないんですよ。医療のMRI検査で影響を受けることもあるとか、大衆浴場に入れないなど、その他諸々のリスクを避けるための風潮だそうです。それでも……、これがあれば一目でそう見えるでしょう。そういうイメージを持たせる意味でということです」

「もう必要なくなったということなのですね」

 外したボタンを元に戻しながら、やっと彼が椅子を引いて座る。彼の目線が、美鈴の目の前に降りてくる。

「異動することになりました。四課はもう卒業です」
「え、そ、そうなのですか」

 彼が清々しく微笑んだ。

「はい。こんな顔というだけで、四課に配属されましてね。かれこれ八年でしょうか。やはりあのような風貌になるんですよ、どの男も。気持ちも同じようなところに染まって行かねば対抗できないところもあります。ですが自分はどうしても、最後まで染まり切れませんでした」

 こんな顔って……。目力があってちょっと目鼻立ちはっきりしていてがっしり体型、そんな彼が真剣な顔になるとほんとうに威圧感ある。その雰囲気をどうもかわれていたと聞くと美鈴も納得してしまう。
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