The Slave
3.
幸い、その男性の家は、ザックの家から離れてはいるものの、電車一本で行ける場所にあった。

ザックの家はももの住む場所から少し遠いので電車で行く。
普段、交通費節約の為に自転車通勤しているももにはささやかな贅沢で、仕事だけど遠足にでも行くような楽しい気分にもなれた。
同じ路線上だと、電車代が少し割引になる。だからザックの家の後その男性の所に行くのは、ももには好都合だった。
どんな人だろう。
ザックみたいな人だといいな。
だらしないハウスメイトにはとことん冷たい彼だが、ももには親切で、掃除がしやすいよう気を配ってくれるし美味しいご飯を作ってご馳走してくれたり。
いや、そこまでしなくても意地悪じゃなくて、働きやすければ良い。それに越した事はない。

メールに記載されていた住所は駅から歩いて5分と近かった。
この国によくあるタイプの一軒家。
ベルを押す。

出てきた男性は40歳くらいだろうか。
背は180cmくらい、髪の毛は濃い茶色で顔立ちも濃かった。南部のイタリア系かギリシャ系だろうか。もしかしたらアラブ系の血も入ってるかもしれない。
西洋人によくあるがっちりした体型の男だった。

「こんにちは。お待ちしてました。ステファンです」
「ももです。はじめまして」
握手して挨拶。
家の中に案内される。
日本のように玄関はなく、入ったらすぐにキッチンがあった。右手に書斎らしきスペース。左手にはリビング。奥の方に部屋が続く。

「座って下さい。何が飲みますか」
「おかまいなく」
キッチンがカウンターテーブルになっており、そこの椅子を勧められたので座る。
「ご覧のように散らかってますけど」
「いや、綺麗ですよ」
書斎は書類で溢れていたけど、汚いというレベルではなく、リビングも片付いていた。ただ、ホコリが少し溜まっていた。
「自宅で仕事をしているのですが、クライアント先に行く事も多いのでなかなか掃除するヒマがないんですよ」
「職業は?」
「今はビジネスアドバイザーです」
何やら難しそうな肩書の仕事だ。
「書類を動かされると仕事に支障出ますから、書斎はサッとホコリ拭いて掃除機がけだけで良いです。リビングとキッチンは少し念入りにお願いします。あと、寝室」
そう言って、部屋に案内される。
汚くはなかったが、散らかっていた。
ベッドメイクもしてないし、部屋の隅に服が積み重なっている。その横にシャワースペースがあり、タオルが乱雑に散らばっていた。
「ここを綺麗に片付けてくれると助かります。時間があればアイロンがけを。4時間で一万円お支払いします」
ザックの所と一緒だ。そして時間にも余裕で仕事できそうだ。

ステファンの部屋を出て、その奥にももう一つ部屋があるのに気づいた。
「そこは掃除しなくて良いです。ハウスメイトの部屋なんです。滅多に帰ってきませんが」
「そうですかー」
「では、お願いします。掃除用具はこちら」
といってタオルや洗剤が詰まったバケツを渡される。
「他に必要な物があれば買うので教えて下さい。私はそこで仕事してますのでわからないことがあれば声かけて」
「わかりました」

ステファンは書斎に行き、デスクの前に座り仕事を始めた。
ももは、バケツを手に取り、まずはリビングから始めることにした。
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