二度目の恋
病院を出て歩くこと数分して、大きな公園に着いた。
土曜日の午後の公園は、家族連れやカップルで賑わっている。
街路樹の中を歩いて行くと、空いているベンチに座る。
すると、繋がれていた手が離れた。
ホッとしたような、少し寂しいような、何とも言えない気分になった自分に驚いてしまった。

そんな雰囲気を誤魔化すように、ずっと疑問に思っていた事を聞いた。
「どうして私を病院に連れて行ったんですか?」
「どうしてだと思う?」
課長は一瞬フッと笑った。
でもすぐに真剣な顔に戻った。
「松本さんは真面目で、新入社員にもかかわらず、仕事は正確でスピードも速い」
まさか、課長にそんなふうに評価されていたとは思ってもいなくて、少し俯いてしまう。
「でも、ひとりで抱え込んでしまってる感じがするんだよな」
ドキッとした。
あながち間違ってはいない。
それは司を失ってから、人に頼る事、甘える事がすっかり苦手になってしまったからだ。
「原田さんが心配してたよ。松本さんのデスクの引き出しの中に頭痛薬や胃薬が大量に入ってるのを見ちゃったらしくて、俺に松本さんの仕事量を減らせって抗議されたよ」
「えっ…」
返す言葉が見つからない。
原田先輩にそんなに心配かけていたなんて、全然気づかなかった。
「何か心配事でもある?」
課長の声色が優しい。
課長の優しさが心に染み入る。
途端に私の目から涙が一滴落ちた。

「大学入学前に幼なじみだった彼が交通事故で突然亡くなったんです」
私はポツリポツリと話し始めた。
「亡くなる2週間前から付き合い始めたばっかりでした。初めて付き合った人でした」
バッグからハンカチを取り出し、目頭を押さえる。
「私、独りで生きていくって決めたんです。もうあんな想い、二度としたくないんです。怖くて…頼ったり、甘えたりする事も…人と深く関わる事も…」
課長は黙ってただ私の話を聞いてくれている。
「毎年彼の命日の2、3日前くらいに体調が悪くなるんです。頭痛だったり症状はいろいろなんですけど。働くようになってからは時々症状があって。多分人と関わる事が増えたからだと思います」
「大学の時は大丈夫だった?」
「はい。猛烈に勉強してましたから」
課長は優しい笑みを浮かべている。
つられて私もフッと笑ってしまった。
「申し訳ありません。こんな重い話…あの、仕事量の事は大丈夫です。ご心配おかけして本当に申し訳ありません」
深く頭を下げた。
手に持っていたハンカチをギュッと握りしめる。
いつの間にか涙は止まっていた。
これ以上課長に心配をかけては申し訳ない。
原田先輩には月曜日に謝ろう。
そう思って、私は苦笑いを浮かべた。
すると、課長は私の手を上から被うようにギュッと握った。
驚いて課長の顔を見上げると、
「松本さん、俺と結婚を前提につき合って」
…はいっ!?
私の空耳?
何か今とんでもない言葉が聞こえた気がするんだけど。
私の思考回路は一旦停止した。
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