二度目の恋
「おはようございます」
昨日の体調不良が嘘のように、顔色良く、元気に挨拶してデスクに着いた。
すぐに部長のところへ赴き、
「昨日は早退して申し訳ありませんでした」
深くお辞儀すると、
「気にしないで。それより本当に大丈夫?」
と、怪訝そうに顔を覗き込まれた。
さすが、部長。嘘は通用しないのかも。
それでも私は嘘を付き続ける。
どうしても今日一日だけは、元気いっぱい明るく過ごしたかった。
「はい。元気になりました。それでは仕事に戻ります」
部長に一礼して、自分のデスクに戻った。
ちょうど原田先輩が出勤してきたところだったので、無事である事を伝えた。
課長は朝から会議で、お昼前に戻る予定のようで、私は内心ホッとした。
溜まっていた仕事をサクサクと片付けていると、あっという間にお昼前になっていた。
そろそろ課長が戻って来る頃かな。
原田先輩と社員食堂に向かおうとフロアを出たところで、ちょうど課長が会議を終えて戻って来るところで、声をかけられた。
「松本さん大丈夫?顔色は…まぁ、良さそうには見えるけど…」
部長と同じように怪訝そうに顔を覗き込まれて焦った。
それでも今日は…今日一日だけは頑張ると決めた。
「大丈夫です。社員食堂に行ってきます。失礼します」
お辞儀して、原田先輩と並んでエレベーターに向かおうとした、その時。
「松本さん、今日仕事終わったら、1階エントランスで待ち合わせ」
課長はそう言って颯爽と総務部に戻って行く。
私は口をポカーンと開けたまま、課長の後ろ姿を眺めていた。
私の横にいる原田先輩も同じように口を開けたまま、課長と私を交互に見ている。
「あの、原田先輩?」
やっと声が出た。
「ちょっと!今の何!?」
原田先輩は私に詰め寄ってくる。
幸い廊下には私たちしかいなかったけど、原田先輩には間違いなく、課長の言葉が耳に入ってしまっていた。
「いや、仕事の打ち合わせだと思います」
無難な返事をして、原田先輩に納得してもらおうとしたけど、先輩の目はランランと輝いている。

社員食堂に着いて、席に座るなり、
「で、さっきのは何?」
と、またしても詰め寄られる。
全て話してしまいたいけど、ここは社員食堂。
しかもお昼真っ只中で混み合っている。
ヘタな話は出来ない。
「明日詳しく話します。すみません」
原田先輩は諦めた様子ではなかったけど、明日話すという事で、しぶしぶ了承してくれた。
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