空色の欠片
 同窓会開始まであと3分のところで私は断念し、緊張した面持ちで会場へと続く廊下を進んだ。

「ドンッ!」
「痛っ!」
「あ、すみません…」

まだ同窓会が始まってもいないのに、ぶつかったりぶつけられたり忙しない…とげんなりしていると、

「大丈夫ですか?」

という落ち着いた低音ボイスと共に、スッと視界に男性特有の節の目立った、でも綺麗な手が降りて来た。
掴んでいいものかどうか手を見つめ躊躇う。
そっとその先を見上げると、照明に逆光し影になる男性がこちらを覗き込んでいた。
そして私の顔を見ると、彼は驚いた表情を見せた。

「…もしかして……小野?」
「えっ!?」

慌ててもう一度男性を見ると、懐かしい面影がそこにあった。

「…町田君…?」

半ば呟くように声にすると、町田君はフッと目を細めて笑った。

「久しぶり…」

町田君はそう言うと、私の手を躊躇なく掴み軽々と引き上げてくれた。

「もしかしなくても、同窓会?」
「う、うん…」
「良かった。場所迷ってて。連れてってくれない?」
「え!すぐそこだけど…」
「……。そっか…」

握られた手を誤魔化すように会場の方を指さすと、町田君は照れ臭そうに視線を外した。

「ひょっとして、方向音…」
「言うなよ!」

私は思わず声に出して笑ってしまった。
さっきまでの鬱々とした気分は一瞬にして飛んで行った。
暗黒時代だったと蓋をしてしまった高校時代。
けれど、決して辛い思い出ばかりじゃなかった。
こんな風に、私を覚えてくれていた人もいた。
そして…町田君は昔、私が淡い恋心を抱いていた片思いの相手でもあった。
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