気高き国王の過保護な愛執
「リッカ…?」

「私がわかるのね、よかった。気分は?」


下衣をつけたところで力尽きたのだろう、上半身はなにも身に着けておらず、それどころか拭いた様子すらなく、びしょ濡れだ。

浅い呼吸を、激しく繰り返している。

フレデリカは羽織っていたガウンを脱ぎ、ルビオの身体にかぶせた。部屋が温かいおかげで、体温は下がってはいない。むしろ熱い。

脱水の可能性もある。水を飲ませないと。

しかし、なんだろう、かすかに感じる、この匂い…。

記憶を探り、フレデリカは青くなった。


「ルビオ、がんばって少しだけ歩ける? 急いでここを出たいの」


うなずくルビオの片腕を肩に担ぎ、背中を抱いて、一歩一歩踏みしめるように扉へ向かった。ルビオはなんとか立っているといった具合で、フレデリカは身体の半分を壁にこすりつけて、ふたり分の体重を支えないとならなかった。

通路に出て、扉を閉める。匂いの影響下から抜けると、ルビオがふっと覚醒したのがわかった。預けられていた体重が、半分ほどになる。

一緒に崩れ落ちるようにして、壁際にルビオを座らせた。フレデリカより頭ひとつ大きく、背丈にふさわしいだけの筋肉を身につけたルビオは、たいそう重い。


「なにがあったの。あの香は人の頭を壊す薬よ」


ようやく新鮮な空気の下に出られたからか、ルビオは貪るように呼吸をしている。胸を上下させながら、「そうなんだ?」とぼんやりした声を出した。


「てっきり、媚薬かなにかかと…」

「同じことよ。効果が浅ければそうなるわ。要するに判断力を失わせるの。でも使い方を間違えたら、人を人でなくしてしまうこともできる、危険な薬よ。こんなものを使うなんて」


浴室から持ってきた布が、同じ香りに染まっていることに気づいて投げ捨てた。ガウンでルビオの濡れた頭を拭く。


「なにがあったの」

「母上が…」


そこで気力が尽きたように、声は消えてしまった。

うつむいたルビオの、震える唇に、血が滲んでいることにフレデリカは気づいた。

王妃がルビオに、無理やり罪を認めさせようとしたに違いない。

ガウンごと、ルビオの頭を抱き寄せた。

どうしてルビオばかりが、こんな目に。


「ルビオ、なるべく早く部屋へ戻りましょう。水を飲んでほしいの」

「うん…」

「クラウス様を呼びにやる?」
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