気高き国王の過保護な愛執
ふるふると首を振ると、ルビオが顔を上げ、深々とひと呼吸した。目が開き、しっかりした視線がフレデリカを捉える。


「ごめん、歩けるよ。行こう」


フレデリカはうなずき、肩を貸すために立ち上がった。




「それはなに?」


パラスの広さを恨みながら、やっとのことでルビオの自室に辿り着いたフレデリカは、彼がずっと片手を握りしめていたことに気がついた。

ルビオ自身、そのことを忘れていたようで、「ああ」と自分の手を見下ろし、拳を開く。小さな塊が、ころんと机に転がった。


「さわらないでね、毒だよ」

「え?」

「刺客が口に含んでた」


歩けるほどには回復したとはいえ、身体の自由は戻りきっていないのだろう、ルビオの口数は少ない。

長椅子に身を投げ出し、横たわる様子を、フレデリカは痛ましく眺めた。かつてあれだけの傷を負っていてさえ、弱ったところを見せなかったルビオが。

フレデリカは用心深く、柔らかな樹脂で覆われた毒をつまみ上げた。


「これ、預からせてもらってもいい?」

「いいけど、なぜ?」

「王妃様が見つけたという小瓶を、手に入れることはできないかしら」


ルビオの目つきが、はっと光を帯びる。


「同じ毒かどうか、調べる気かい」

「わかればね」

「実はさっき、その小瓶を見せられたんだ。まだ浴場にあるかも…」

「ないと思うわ。その刺客って、女の人じゃない? 金色の髪の」


目を丸くするルビオに「すれ違ったの」と教えた。


「侍女に扮して、なにかを抱えてた。きっと香炉と、その瓶だわ」


ルビオが長椅子の上で、頭をのけぞらせた。


「どうして奪うことを思いつかなかったんだろう。迂闊だった…」

「気にすることないわ、本物とは限らないもの。あなたはよく耐えたわよ、あれだけ香りが残っていたなら、相当つらかったでしょうに」
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