気高き国王の過保護な愛執
「そんなのいいわ、謝らないで」


弾む呼吸の音が、何度かふたりの間に響く。

それがいくらか静まった頃、ルビオがぽつりと言った。


「いいって、なんだい」

「えっ…」


ルビオの手がなにかを求めて動き、フレデリカの手を握った。

そちらに気を取られ、すぐに顔を戻すと、ルビオがこちらを見ていた。灰色の瞳は、熱のためか潤み、中心で青色が揺れている。


「いいって、どういう意味だ」


手のひらの、あまりの熱さにフレデリカはうろたえた。

意味…。

そんなの、決まっている。"気にしていない"とか、"許す"とか…。そこまで考えたとき、気がついた。軽く口にした言葉が秘めていた、もっと先の意味に。

戸惑いに視線を揺らすフレデリカを、ルビオはじっと見つめる。


「説明できないのなら、帰ってくれ」

「そんな…」

「今すぐ帰らないなら」


手を握る力が強まり、痛むほどだった。伝わってくる震えに、言葉を失う。

ルビオは祈るように目を閉じ、フレデリカの手を額に押しつけた。


「朝までいてくれ」


吐息のまざった、かすかなささやきだった。

朝まで、という意味が、わからないフレデリカではない。頭が混乱し、自分が怯んでいるのがわかった。

けれどそれも一瞬だった。

フレデリカは枕元の床にひざをつき、ルビオの手を握り返した。


「いるわ」

「ダメだよ」

「そっちが言い出したのよ」
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