気高き国王の過保護な愛執
「始めてくれ」

「今宵は、深く参りますよ」

「頼む」


長椅子に座ったルビオが、フレデリカを見る。こちらに手を差し出したので、反射的にそこに手をのせた。

ぎゅっと指先を握られる。

その手はもう、震えてはいなかった。


「あなたがどんな状態で戻ってきたとしても、私は必ずここにいるわ」

「うん」


横になったルビオの顔の前に、男が珠をかざす。


「目を閉じて…水の中から始めましょう。冷たい、流れる水。春が近いことを、あなたは感じていた。川が命までは奪わないことを、祈っていた…」


男の声は次第に低くなり、離れたところで見守るフレデリカの耳に届かなくなる。

彼はいったい何者なのだろうと、何度目かの疑問を抱いた。

ルビオの指先が、ぴくりと動いた。

フレデリカは身体を緊張させた。男は静かに問いかける。


「今見ているものを教えてください」

「男」

「顔は見えますか」

「背中だけ。影…」

「なぜ、男だと思いますか」


ルビオからの答えはない。

フレデリカは、ごくりと喉を鳴らした。ここまで鮮明に、ルビオがなにかを"見た"ことはない。

じっと身を屈めて待つ男の下で、ルビオの唇が動いた。


「──知っている…」

「誰?」

「青い、小さな瓶。今、振り返る──…」
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