気高き国王の過保護な愛執
「すまない、大丈夫だ」

「振り落とされますぞ」


金色の目は愛想笑いひとつせず、冷ややかに見返す。

一瞬、白昼夢を見ていたらしい。最近よくこうして、記憶の断片が唐突によみがえってくる。

今見たい夢ではなかったな。

心がますます重くなっていくのを自覚する。

すると、馬がハミをかちゃかちゃと口の中でもてあそび、ルビオの騎乗に不満があることを伝えてきた。

ルビオは苦笑し、つややかな首筋を叩いて許しを請った。

ディーターの愛馬だったという、葦毛の牝馬だ。まだ若く、濃い灰色の毛並みと白いたてがみの組み合わせは個性的で美しい。

狩りはしないが乗馬は好きだったというディーターになりきるため、この馬に乗らざるを得なくなったとき、人目を盗んでそっと『おれが誰に見える?』と尋ねてみた。

馬独特の、知性と神秘性をたたえた深い黒色の瞳がルビオをじっと見つめ、やがて淡い桃色の鼻先が、ルビオの胸元を押した。

この華奢な馬にオニキスという名をつけた、ディーターの発想力の貧困さに、自分の所業とはいえあきれるしかない。


「あの飛び地がご覧になれますか」

「ああ」


丘陵の頂上には、ルビオとゲーアハルトを入れて四騎がぎりぎり並んで立てるだけの平らな場所がある。

王都を突っ切り、王国のほぼ中心にある小高い土地のてっぺん。王都を背にして、卿の無骨な指が差す方向を見た。

戦争の終結時の混乱で、場所的には王国内にありながら、共和国に属することになった小さな集落だ。


「王国に帰依したいとの請願が何度か上がっております」

「受理してやればいい」

「共和国への交渉は?」

「彼らが直接行うのは到底無理だ。テルツィエールが代理してやる必要があるに決まっている。おれにわざわざ聞くようなことか?」

「…先王は」

「父上は父上だ。それとも卿は、母上の命令でなければ聞けないか」
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