気高き国王の過保護な愛執
ルビオは仰向けになったまま、その鼻面をなでた。


「ディーターはよほどお前に首ったけだったんだな」


わからないでもない。美人な馬だ。気が強く、自信に満ち溢れている。

転がったルビオの足元を、小川が流れている。王城のふもとを流れ、フレデリカの村まで続く流れの支流だ。

早朝に出発して、もう太陽は西に傾きかけている。道中で一泊するつもりはないので、ゲーアハルトたちが追いつくのを待って急いで帰城だ。

だが起き上がる気にならず、ルビオは手の届くところにある草を引っこ抜き、寝そべったままオニキスに食べさせた。


「あいにく、おれの心の中にはね、もう別の女の子がいるんだよ」




「どうしたの、この間抜けな痣!」

「噛まれた…」


ルビオの肩を見たフレデリカは、唖然としてしまった。絵に描いたような歯形が、くっきり残っている。

自室の椅子に腰かけ、裸の背中をフレデリカに向けて、ルビオはうなだれている。彼なりに不名誉な出来事だったらしい。

フレデリカは、持参した薬箱から内出血を消す膏薬を取り出した。


「なにをしたらこんな見事に噛まれるのよ」

「あんなに嫉妬深いと思わなかったんだ」

「これ、馬よね?」


嫉妬とはどういうことかと首をひねりながら、左肩の痣に塗り込んでいく。同じ場所には、引き攣れて変色した矢傷がある。


「呪われてるんじゃないの、この左肩」

「かもしれない」


軽口を言い合っていたとき、扉が叩かれた。

ルビオが身体を緊張させたのが伝わってきた。

この遅い時刻にここへ来るのは、フレデリカ以外にはたったひとりだ。
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