気高き国王の過保護な愛執
「ディーター、失礼します。明朝の予定に変更が出たのですよ」


柔らかな声で話しながら、クラウスが入ってきた。

穏やかな仕草、優しい微笑み。孤独なディーターにとって、安定剤のような存在であったことは想像に難くないのに。

いまや、フレデリカの手の下で、ルビオの身体は極度に強張っている。肌がじっとりと汗ばんできたのを感じた。

クラウスは親しげに笑いかけ、予定の変更を手早く伝えた。


「というわけで、少しゆっくり過ごされて大丈夫ですよ」

「わかった」

「とはいえ、あまりはめをはずさないようにね」


半裸のルビオと、かいがいしくそこに湿布をしているフレデリカをいたずらっぽく茶化し、部屋を出ていく。

ふたりは詰めていた息を吐いた。


「…あれからなにか、思い出した?」

「いや」


フレデリカからは、うつむくルビオの頬しか見えない。

かわいそうだ。よみがえった記憶はあまりに断片的すぎて、かえってルビオを苦しめている。

フレデリカは、ルビオがまだ、心のどこかでまだ友人を信じたがっているのを知っていた。だがそれは絶望に終わるだろうことも、知っていた。

そしてルビオ自身、それを承知していることも。

友情は失われたことを、ルビオはとうの昔に悟っていたのだ。

だからこそ、"思い出したくない"という、あれだけ激しい拒絶があったのだ。記憶を取り戻す旅にクラウスを同席させなかったのも、意識下でそれを覚えていたからだ。


「ルビオ…」


たまらなくなり、椅子の上の身体を抱きしめた。

記憶をなくして王城に戻ってきてから、唯一気を張らずに接することのできていた相手。ルビオは友人を、二度も失った。

記憶を失ったことも、一部を取り戻したことも、隠して生きなくてはいけない、がんじがらめのルビオ。
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