気高き国王の過保護な愛執
「ぼくは今年も、去年も、城からセバーダの篝火を見た」

「そうなの?」


ルビオがうなずいた。


「あそこにリッカがいるんだなって思ってたんだけど、よく考えたら、去年の時点で、もうきみはあの村にいなかったんだね」

「そうね。ルビオがいなくなってすぐ、父が亡くなったから」


引き留めるリノたちに別れを告げ、館を引き払い、尼僧院の扉を叩いた。

オットーはフレデリカの将来に、その道しか残されていないことを最期まですまながっていた。彼が爵位を返上しさえしなければ、フレデリカを嫁がせる先などいくらでも見つかったに違いないのだ。

そして没落したとはいえ元貴族の家系のフレデリカが、市井の家庭に下れるわけがないことも、明白だった。


「私をひとりで残すことを、気に病みながら逝ったの。かわいそうだった」

「ふたりきりの家族だったんだもんね」

「父は私以上に、ルビオがあの家で暮らし続けてくれることを、願っていたと思うわ」


どこの誰でもないルビオが、ふいに娘のそばに現れたのを、もしかしたら一番喜んでいたのは、オットーだった。これでフレデリカをひとり遺していかずに済む、と安心したに違いないのだ。

ルビオがふと、腕の中のフレデリカの頭の上に、顎を乗せた。


「ぼく、実はオットーから、その話をされた」

「え?」


フレデリカは驚き、上を向こうとするが、顎の重さに阻まれてできない。


「セバーダの準備で広場に寝泊まりしていたとき、オットーがやってきて、『できることなら永久に、リッカといてやってほしい』と言った。ぼくは彼の病のことを知らなかったから、ちょっと変な頼みだなと思ったけど、正直に答えた」

「…なんて?」

「『ぼくもそうしたい』って」


知らないところで交わされていた、父とルビオの会話に、フレデリカは目の奥が熱くなった。
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