気高き国王の過保護な愛執
オットーに伝えることができたらいいのに。事情はどうあれ、ルビオはフレデリカと一緒にいると。


「私をここへ呼んだのは、父かしら」

「守護神みたいだもんね、体格とか顔とか」


ルビオがくすくす笑うと、腕の中のフレデリカも揺れる。その笑いは、すぐに消えた。


「こんなふうに"ルビオ"の記憶を辿るのも、本当をいえば怖い」

「どうして?」

「思い出した分だけ、どこか欠けたんじゃないかって。その欠けた部分に出会ってしまったら、絶望するんじゃないかって。いや、それ以前に、出会ったところで自分は、それに気づきもしないんじゃないかって」


絶対に肩代わりできない、ルビオの不安。心もとなさ。自分という存在の、実感のなさ。それを感じ、フレデリカは目を閉じた。


「今は頭の中でなく、目の前に危険があるのよ、しっかりして」


ルビオが明るい笑い声をたてる。


「守護神の娘はたくましいなあ」


手が頬に添えられ、唇が重なる。ルビオの男らしさが表れた、熱く、まっすぐな情熱を伝えるキス。

おやすみの言葉を交わし、部屋を出た。音を立てないよう扉を閉める。


「記憶がどうとか聞こえましたが」


突如、間近から聞こえた声に、フレデリカは悲鳴を噛み殺した。

薄暗い廊下に、光る艶やかな波打つ髪。


「クラウス様…」

「部屋までは暗い。お気をつけて」


いつもと同じ、親切な口調、柔らかな微笑み。

すべて思い過ごしだと思いそうになる。だがフレデリカは、記憶が戻った瞬間の、ルビオの恐慌を目の当たりにしている。

背筋を汗が伝った。
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