気高き国王の過保護な愛執
「私のためにあのようなこと、言ってくださらなくていいんですよ」
「リッカのためだけじゃないもの、兄さまのため。ババアの戯言を真に受けるバカが多すぎるわ。兄さまが人を殺したりするわけないじゃない、しかも身内を。なんでみんな、そんなあたり前のことがわからないの」
ごろんと仰向けになり、大の字に手足を広げる。金色の髪が草の上に散った。
「兄さまはね、人を楽しませるのが下手だとわかってたから、誰とも会話しようとしなかった。自分がいるとみんなが気を使うから、すぐ部屋に引っ込んだ」
空をにらんで、怒っているような声を出す。
「優しいとかじゃない。気が弱いとかでもないの。ただ、人は幸せに、安心して暮らす権利があって、それを守るのが王族である自分の役割だって信じてた」
水色の瞳に、涙の膜が張る。
「自分の生まれた意義をいつも考えてる人だった。ギュンター兄さまと、特別仲がいいわけじゃなかったけど、いずれ王位に就く彼を助けるのは自分だって、時間があれば勉強をしてた」
高いところでうろこ状に割れた雲が、上空の風の強さを示している。夏の終わりが近いのだ。
フレデリカは、イレーネの語るディーターの像が、ルビオとまったく異なるようでいて、ぴったり重なると感じた。
きっと第二王子という立場上、影に徹すると決めていた彼は、自分に備わっていたあの華のある社交性に気づかないまま成長したのだ。
「そんな兄さまを知ってるのは私だけだって、いい気になってた」
王女の声が震えていたため、フレデリカは驚いて彼女を見た。いつの間にか、大粒の涙を次から次へと、こめかみに伝わせている。
「彼をよく知らないってだけで、こんなふうに大勢が兄さまの敵に回るなんて」
ついにイレーネは唇を大きく震わせ、腕で顔を隠した。
「人に迷惑かけて楽しんだりするんじゃなかった。私がなにを言ったって、兄さまの味方をしてくれる人なんか現れっこない。私がもっと王女らしければ、王妃の言葉なんて信じるなって、宣言を出すこともできたのに」
「リッカのためだけじゃないもの、兄さまのため。ババアの戯言を真に受けるバカが多すぎるわ。兄さまが人を殺したりするわけないじゃない、しかも身内を。なんでみんな、そんなあたり前のことがわからないの」
ごろんと仰向けになり、大の字に手足を広げる。金色の髪が草の上に散った。
「兄さまはね、人を楽しませるのが下手だとわかってたから、誰とも会話しようとしなかった。自分がいるとみんなが気を使うから、すぐ部屋に引っ込んだ」
空をにらんで、怒っているような声を出す。
「優しいとかじゃない。気が弱いとかでもないの。ただ、人は幸せに、安心して暮らす権利があって、それを守るのが王族である自分の役割だって信じてた」
水色の瞳に、涙の膜が張る。
「自分の生まれた意義をいつも考えてる人だった。ギュンター兄さまと、特別仲がいいわけじゃなかったけど、いずれ王位に就く彼を助けるのは自分だって、時間があれば勉強をしてた」
高いところでうろこ状に割れた雲が、上空の風の強さを示している。夏の終わりが近いのだ。
フレデリカは、イレーネの語るディーターの像が、ルビオとまったく異なるようでいて、ぴったり重なると感じた。
きっと第二王子という立場上、影に徹すると決めていた彼は、自分に備わっていたあの華のある社交性に気づかないまま成長したのだ。
「そんな兄さまを知ってるのは私だけだって、いい気になってた」
王女の声が震えていたため、フレデリカは驚いて彼女を見た。いつの間にか、大粒の涙を次から次へと、こめかみに伝わせている。
「彼をよく知らないってだけで、こんなふうに大勢が兄さまの敵に回るなんて」
ついにイレーネは唇を大きく震わせ、腕で顔を隠した。
「人に迷惑かけて楽しんだりするんじゃなかった。私がなにを言ったって、兄さまの味方をしてくれる人なんか現れっこない。私がもっと王女らしければ、王妃の言葉なんて信じるなって、宣言を出すこともできたのに」