気高き国王の過保護な愛執
フレデリカは慌てて上衣のずれを直した。


「なんでもないわ」

「男?」


そのあけすけな憶測に面食らって、ルビオを見返した。彼は冷やかしたつもりもないらしく、ただ不思議そうに彼女の顔を覗き込んでいる。


「男だったらどうなの?」


自分でも理由のわからない腹立ちが込み上げてきて、つっけんどんに言い返した。ルビオがびっくりした顔をする。


「別に、どうもしない。なんで怒る?」


すぐに自分を恥じ、フレデリカは「ごめんなさい」と顔を赤らめた。


「これ、あなたよ。矢を抜いたとき。歯を食いしばりたかったのね」

「ぼく?」


ルビオはさらに驚き、素っ頓狂な声をあげた。


「ぼくが噛んだのか? リッカを?」

「そう」

「そんな…痕になるほど? まだ消えないって、相当だぜ…」

「薬を塗るのを忘れてたのよ。服の上からだったし、傷ができたわけでもない。痛くもないから、気にしないで、本当に」


だがルビオは愕然と目を見開き、「ごめん」と絞り出すような声で言った。


「すまない、リッカ」

「謝らないで。あんなときだったんだから」


ルビオの右手が、もう一度フレデリカの肩に伸びた。痣を隠していた彼女の手をそっとどけて、服をよけ、肌に触れる。

痣をなでる彼の指から、乾いた土の匂いがした。

灰色の目が、じっと肩に注がれているのをフレデリカは見上げた。金色の髪は、指先と同じく、ここでの暮らしで艶を失いつつある。しかし本人は、一向に気にする様子を見せない。
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