気高き国王の過保護な愛執
こうして一方の壁に背中をつけて脚を投げ出しても、つま先がどこにも触れないくらいには広さがあるが、そこまで広くもないと感じる。
光は差し込まない。だがどこからか、灯りの気配が漏れているようで、目が慣れた今では、うずくまるイレーネの塊くらいは見える。
「うぅ…」
「イレーネ様、お目覚めですか」
「今、夜?」
イレーネは起き上がろうと身体に力をこめたが、すぐにあきらめた。
「おそらく。私も意識が戻ったばかりで。それに、鐘の音がここまで届かないようなんです」
「ああ、そうかもね」
フレデリカでさえ耐えがたい腕の痛みがある。まだ幼いイレーネであればもっとだろうに、文句ひとつこぼさない。
やはり王族なのだと感動を覚えると同時に、生々しい矢傷を負っていた頃のルビオを思い出した。
「ここがどこだかおわかりなのですか?」
「旧広間の暖炉の中よ」
面倒くさそうに、あっけらかんとイレーネは言った。
フレデリカはびっくりした。暖炉の中!
言われてみれば、大きさも質感も、まさにそのものだ。
「増築される前の建物の名残ですね」
「そう。潰すのも手間だってことで、壁に塗りこめたり漆喰でふさいだりして、そのまま残してある構造がけっこうあるの。これもそのひとつよ」
壁の一辺だけが、石でなく鉄製なのが不思議だったのだが、それでわかった。暖炉の扉だ。
「よくおわかりに」
「寝転がるとわかるわ。炭の匂いが残ってる。それと天井に、煙突の名残がうっすら見えるの。私は城内を誰よりもうろうろしてるしね」
「そういえば、ルビオも同じことを言っていました」
「そうするように育てられるのよ。王城は広いから、自分の職場しか知らない人ばっかりよ。でもみんなを統べる立場にいる者は、隅々まで構造や地理を把握しておかないと、いざというときなにもできない」
光は差し込まない。だがどこからか、灯りの気配が漏れているようで、目が慣れた今では、うずくまるイレーネの塊くらいは見える。
「うぅ…」
「イレーネ様、お目覚めですか」
「今、夜?」
イレーネは起き上がろうと身体に力をこめたが、すぐにあきらめた。
「おそらく。私も意識が戻ったばかりで。それに、鐘の音がここまで届かないようなんです」
「ああ、そうかもね」
フレデリカでさえ耐えがたい腕の痛みがある。まだ幼いイレーネであればもっとだろうに、文句ひとつこぼさない。
やはり王族なのだと感動を覚えると同時に、生々しい矢傷を負っていた頃のルビオを思い出した。
「ここがどこだかおわかりなのですか?」
「旧広間の暖炉の中よ」
面倒くさそうに、あっけらかんとイレーネは言った。
フレデリカはびっくりした。暖炉の中!
言われてみれば、大きさも質感も、まさにそのものだ。
「増築される前の建物の名残ですね」
「そう。潰すのも手間だってことで、壁に塗りこめたり漆喰でふさいだりして、そのまま残してある構造がけっこうあるの。これもそのひとつよ」
壁の一辺だけが、石でなく鉄製なのが不思議だったのだが、それでわかった。暖炉の扉だ。
「よくおわかりに」
「寝転がるとわかるわ。炭の匂いが残ってる。それと天井に、煙突の名残がうっすら見えるの。私は城内を誰よりもうろうろしてるしね」
「そういえば、ルビオも同じことを言っていました」
「そうするように育てられるのよ。王城は広いから、自分の職場しか知らない人ばっかりよ。でもみんなを統べる立場にいる者は、隅々まで構造や地理を把握しておかないと、いざというときなにもできない」