気高き国王の過保護な愛執
イレーネがため息をついた。

その様子が、痛みに耐えかねて、というようでもなかったので、フレデリカは肩透かしをくらった気になった。


「自由になれば…なんですか?」

「ここから出られる」

「どうやって?」


八方ふさがりという言葉をそのまま形にしたような場所なのに。

しかしイレーネはふんと鼻を鳴らした。


「閉じ込めるのにここを選ぶ時点でもう、あいつはクラウスじゃないわ。リッカ、拘束を解く方法を探して。そうしたらここから連れ出してあげる」


確信に満ちた声に、強がりでもなんでもないと感じた。

フレデリカはとっさに床に伏せ、イレーネの手首を縛っている布に歯を立てた。

素早く動くだけで息が切れ、頭が一瞬ぼうっとする。

噛み切るのが先か、呼吸できなくなるのが先か。

出られたとして、はたしてルビオは無事なのか。

考えたって仕方ない、とそのことは頭から追い出した。




思い出した。

フレデリカが肩の内出血に塗ってくれた、膏薬の匂いだ。

効き目は抜群で、内出血は変色するより先に、小さくなって見えなくなった。

だが、その匂いがなぜクラウスから?

次第に人の活動の気配が消え、鎧戸が閉められ、城内がしんと静まる時刻、ルビオは自分の部屋にいた。

机について、イレーネに貸すはずだった王城の昔の図面を、ぱらぱらとめくる。限られた者しか読めないよう、パラスの奥の特別な書庫に、鍵をかけて収めてある本だ。そうでなければ人を使って部屋に届けさせるのだが。

フレデリカは、同じ薬の匂いを嗅ぎ続けていると、けが人や病人の気が滅入るのだと言って、ひとつの薬にも花や薬草で、さまざまな香りをつけていた。

クラウスから感じたのは、間違いなく先日、フレデリカが塗ってくれた薬だ。
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