気高き国王の過保護な愛執
「は、母上…」

「参りましょう、妃殿下」


遮ったのはゲーアハルトだった。

まるでルビオの視線ですら、害を及ぼすと言いたげに、見事な体躯と真っ黒なマントで、王妃を守るようにふたりの間に立つ。

まっすぐルビオを見据え、「危険です」と告げた。

視線だけで護衛は命令を受け取り、王妃を連れていく。


「お休みなさいませ、陛下」


王妃は優雅に膝を折り、乳白色のドレスを揺らして去っていった。

佇むルビオが、さらに悪さでもしないか確認するように、ゲーアハルトはしばらくその場で見張った後、ゆっくりと立ち去った。

誰もいない石造りの廊下で、ぽつんと立ちすくみ、ルビオは床を見つめていた。

独りだ。

すごく独りだ、と感じた。

そしてこの孤独は、しっくりと肌になじむ。昔からずっと独りだった。

クラウスとイレーネ。ふたりだけが、ルビオのそばにいた。

ふと、なにかを聞いた気がした。

声ではない。足音のようなものでもない。

息をひそめ、耳を澄ます。

ゴンゴン、ゴンゴン、と規則正しく繰り返す、かすかな鈍い音。かなり遠く、もしくは何層も壁を隔てた向こうでしているような音だ。

かなり注意深く耳をそばだてないと、どの方向から聞こえてくるのかも判断がつかない。かろうじて、王城のさらに奥、かつ上方向であるのがわかったので、そちらに足を向けたとき、音の拍子が気になった。

あきらかに意図的な拍子を刻んでいる。二回、二回、三回。間を置いてまた二回、二回、三回。

なんだったろう、このリズム。絶対に知っている。

ルビオはいつも、こういった記憶を探るとき、頭の中の引き出しの、どのあたりを開ければいいのかまったくわからない。

今もそうで、だからなるべく集中しないよう、全体をふわっと走査する感覚で、このリズムに当てはまるものを探した。
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