気高き国王の過保護な愛執
すぐに見つかった。


「火だ…!」


王城で定められている、半鐘の鳴らし方だ。火が出たとき、川が決壊したとき、敵が潜り込んだとき。それぞれに法則がある。

だが、なぜ火?

とにかく音の源に近づこうと足を進めながら、さらに考えた。火の気配がどこかにあるのか、それを知らせたいのか? いったい誰が?

記憶の片隅が、ちかっと光った。

ルビオは知らず足を止め、頭の中で走り出した光点を追った。あっという間に網の目のような光る道筋ができあがり、分岐に分岐を重ね、複雑な迷路と化す。

目は開いてはいるが、なにも見ていない。脳内に展開されていく地図に圧倒され、しかし自分は、それを把握していることがわかった。

先ほど自室で見た、王城の図面。

頭の中だけにある、光る迷路。

ルビオは走り出した。音が聞こえてくる方角は無視した。




「イレーネ様、なぜそこを蹴るんです、扉じゃなく?」


フレデリカは不思議に思って尋ねた。長いこと布を齧っていたため歯ががくがくし、頭もぼんやりしている。

両足をぶつけるように、暖炉の奥の床を蹴り続けているイレーネから、答えはない。朦朧としながら、同じ動作を繰り返しているのだ。

フレデリカは、恐ろしさに肌が泡立つのを感じた。

急がないと。

だがここへ来て、急激な眠気が邪魔をする。いよいよ脳に空気が行かなくなったのだ。

布は半分以上ほつれ、イレーネが全力で腕を動かせたとしたら、引きちぎることができそうだ。だがそれは無理だとわかった。

フレデリカは、少しでも空気を無駄遣いしないよう身体の力を抜き、布に歯を立てた。




暖炉があったはずの場所には、天井まで続く分厚い壁ができていた。

ルビオは驚愕した。
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