気高き国王の過保護な愛執
もともと、広間だった場所を壁でふたつに仕切り、一方は備品庫に、一方は用途のない空間として放置してあった場所だ。

美しさなど誰も求めなかったのであろう、床の文様も半端なところで途切れ、無骨な石と漆喰の壁に踏まれている。

かつて広間を温めていた大きな暖炉は、外部と遮断するため煙突を塞いだ状態で、ひっそり眠っていたはずだった。

それが、いまや壁の向こうに行ってしまった。知らない者には、両側を壁で区切られた、なにもない部屋にしか見えないだろう。

ルビオは、暖炉の中にイレーネがいると確信していた。そしておそらくフレデリカも。


「くそ!」


この壁越しでは、どんな音も届くまい。

まだ漆喰が完全には乾いていない。拳で壁を殴り、目を閉じた。再び脳内に、入り組んだ迷路を呼び出す。

ひとつの可能性に賭け、部屋を出ようとしたとき、ぎくっとして足を止めた。

使われなくなった扉を軋ませ、女が入ってくる。

金の髪、青い瞳。

考えるより先に、腰の剣に手を置いた。

あのときの女だ。

右手に、体格に不釣り合いな大剣を握っている。湯殿での暴れっぷりを覚えているルビオは、全身がちりちりと毛羽立つのを感じた。

ゆっくりと歩みを進めていた女の足が、一瞬止まる。

来る、と覚悟を固める間もなく、女の脚が床を蹴り、大剣が空を舞った。




「イレーネ様!」


フレデリカは悲鳴のような声で呼んだ。

イレーネの腕の拘束は解けた。布は完全に噛み千切られ、床に落ちている。イレーネの両腕は解放され、しかし身体の両脇に垂れたまま、ぴくりともしない。


「イレーネ様…!」


いまだ後ろ手に縛られたままの両手を、やっきになって動かした。布が軋むのみで、緩む気配もない。イレーネは動かない。
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