気高き国王の過保護な愛執
身体が小さい分、先に限界が来てしまったのだ。フレデリカは半狂乱になりそうな自分を抑え、あたりを見回した。くぼみやへこみはないか。少しでも新鮮な空気が溜まっていそうな場所があれば。

ない。

絶望と、もっとどうにかできたはずという悔恨に苛まれ、うずくまった、ちょうどそのとき、鉄の扉の向こうですさまじい破壊音がした。

同時に、扉の隙間からさっと新しい空気が流れ込んできたのを感じる。

思わず深々と呼吸したところに、今度は扉が叩かれる音がした。


「イレーネ殿下、ガヴァネス殿、そこにいらっしゃいますか」


まったく知らない女の声が聞こえてきたことに、フレデリカは面食らった。なんとなく、助けに来るのならルビオだと思っていたのだ。

フレデリカは「います」と答えたが、びっくりするほど力ない声しか出ず、はたして扉の向こうまで聞こえたか怪しかった。


「鍵を壊すのに時間がいります。もう少しお待ちください」

「なにか、刃物を隙間から差し込んで!」


気力を振り絞って叫んだ。

誰だか知らないが、扉の向こうの女は、質問を重ねたりして無駄な時間を使わなかった。すぐに両開きの扉の合わせ目から、細いやすりのようなものが押し込まれた。

そのとき、光もそこから差し込んでいることにフレデリカはようやく気づいた。


「う…」

「イレーネ様! お気づきですか」


フレデリカは、イレーネの反応が途絶えたときから心の中で秒数を数えていたのを、止めた。安堵で泣き出しそうだった。後遺症が出るような時間ではない。


「あったまいた…」

「無理なさらないでください」

「するわよ、ぼんやりしてたけど聞いてたわ、刃物ってどこ?」


フレデリカが顎で指し示すと、イレーネはすぐに床からやすりを取り上げ、億劫そうに身体を引きずって、フレデリカの背後に回った。

すぐに布は切れた。フレデリカはふたりの足首の拘束を順に切り、全身で伸びをしているイレーネを横目に見ながら、扉の向こうに話しかけた。
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