気高き国王の過保護な愛執
気の毒そうな声。一瞬、本当に自分のほうがおかしいのではないかと思いかけた。
それを引き留めたのは、かすかな匂いだった。
フレデリカの膏薬。
「…リッカと揉み合っただろう」
「いいえ?」
「イレーネとリッカを消そうとしたな。それがお前の悪事の、なによりの証拠だ」
「おふたりでしたら、お部屋でお休みですよ」
もうやめてくれ。
何事もなかったかのように振る舞うクラウスを前に、自信が揺らぐのを感じ、そんな自分を引き裂きたいほど情けなく思った。
しっかりしろ。フレデリカとイレーネはいない。それはあやふやな記憶とは関係ない。簡単に揺さぶられている場合じゃない。
こうしている間にも、ふたりに新たな危険が迫っているかもしれないのに。
「行ってご自分の目で確認されては?」
「寄るな」
「どうしたんです、そんなに怯えて」
白い指先が伸ばされる。哀れむ視線がすぐそばまで来た。
「ご自分が恐ろしいのですね、かわいそうに」
「おれは──…」
「ルビオ! しっかりしなさい!」
だしぬけに、どこからか叱り飛ばされ、ルビオは思わず背筋を伸ばした。
「そうやって結局、私より自分を信じるのね」
「あいた!」
次々に新しい声が割り込んでくる。どさっとなにかが落ちる音。反響して声の出どころのわかりづらい広間を見回し、見つけるより先に、足元になにかが転がってきた。
「いったあー」
「イレーネ!」
うずくまって腰をさすっているのは、イレーネだった。
ということは…。
背後に顔を向けた。石が積まれた壁の、大人が見上げるほどの高さに、穴があいている。そこからフレデリカが上半身だけ出して、もがいていた。
思った通り、ふたりは暖炉からここへ、逃げてきたのだ!
ルビオは駆け寄り、両手を広げた。
それを引き留めたのは、かすかな匂いだった。
フレデリカの膏薬。
「…リッカと揉み合っただろう」
「いいえ?」
「イレーネとリッカを消そうとしたな。それがお前の悪事の、なによりの証拠だ」
「おふたりでしたら、お部屋でお休みですよ」
もうやめてくれ。
何事もなかったかのように振る舞うクラウスを前に、自信が揺らぐのを感じ、そんな自分を引き裂きたいほど情けなく思った。
しっかりしろ。フレデリカとイレーネはいない。それはあやふやな記憶とは関係ない。簡単に揺さぶられている場合じゃない。
こうしている間にも、ふたりに新たな危険が迫っているかもしれないのに。
「行ってご自分の目で確認されては?」
「寄るな」
「どうしたんです、そんなに怯えて」
白い指先が伸ばされる。哀れむ視線がすぐそばまで来た。
「ご自分が恐ろしいのですね、かわいそうに」
「おれは──…」
「ルビオ! しっかりしなさい!」
だしぬけに、どこからか叱り飛ばされ、ルビオは思わず背筋を伸ばした。
「そうやって結局、私より自分を信じるのね」
「あいた!」
次々に新しい声が割り込んでくる。どさっとなにかが落ちる音。反響して声の出どころのわかりづらい広間を見回し、見つけるより先に、足元になにかが転がってきた。
「いったあー」
「イレーネ!」
うずくまって腰をさすっているのは、イレーネだった。
ということは…。
背後に顔を向けた。石が積まれた壁の、大人が見上げるほどの高さに、穴があいている。そこからフレデリカが上半身だけ出して、もがいていた。
思った通り、ふたりは暖炉からここへ、逃げてきたのだ!
ルビオは駆け寄り、両手を広げた。