気高き国王の過保護な愛執
「リッカ、そのまま飛び出していいよ、受け止めるから」

「それよりも、私が言ったこと聞いてた? あなたは人を殺したりしない。命じたりもしない。いい加減信じなさい、きゃー!」


フレデリカは腹を立てたまま、真っ逆さまにルビオの腕の中に落ちてきた。

そして地面に足をつけるなりルビオを振りほどき、一目散にイレーネのもとへ駆け寄った。


「イレーネ様、ご無事ですか」

「ご無事よ、リッカこそ傷だらけ。"モウル"は細いのが難点ね」


床の上で抱き合うふたりを、ルビオはぽかんと見つめる。


『あなたを信じてる、私のことを信じてはくれないの』


いつだったか、フレデリカが言った。


『そうやって結局、私より自分を信じるのね』


リッカ、ぼくは…。

ぽっかりと空いた、頭の中の暗い穴。足元を覆い尽くす底の知れない泥。いつか落ちて、飲み込まれると思って暮らしてきた。


『私があなたの分も、あなたを信じるわ』


足場が急速に、固まっていくような感覚が走った。

大丈夫、おれは立っている。

イレーネを腕に抱き、フレデリカがこちらを見た。力強く、まっすぐな瞳。

リッカ、きみがそう言ってくれるなら。

ぼくは、きみが信じてくれたぼくを。

信じる。


「ルビオ!!」


はっとした。フレデリカの瞳が恐怖に見開かれている。

視線を辿って、肩越しに背後を振り返る。

クラウスの右手に握られた剣が、灯の中にひらめいた。


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