気高き国王の過保護な愛執
「私がクラウスでないと、証明できますか? クラウスを幼少の頃捨てた伯爵家以外に、彼を確認できる者はいない。もっとも近しいあなたは、このザマ」


黒幕がわかると、偽物の余裕にも納得がいく。王妃がついているのであれば、どう転んだって逃げ切れると考えているに違いない。

ルビオの顔が屈辱に歪む。


「できますよ」


誰もが、今のは誰の声か、という疑問に包まれた。


「実家などに頼らなくとも、あまたの女たちが、クラウスの瞳の色を知っています。ただの茶色と思われがちだが、実際は金と琥珀のまだらなのですよ」


平然と発された、この場に似つかわしくない言葉が、全員をぽかんとさせる。

声の主は、消去法で見つけるしかなかった。

ローブの男だ。

フレデリカは、そのときはっと気がついた。

曲がった背中で、つらそうに歩いていた男が、いつの間にかしゃんと立ち、何不自由なく手足を動かしていることに。

そして声も。

深く垂れて顔を隠した頭巾から、布越しに聞こえてくる声は、しわがれて不明瞭だったはず。だけど、今では、まるで…。

まるで青年のような…。


「あなたは薬で瞳の色を変えましたね。気の毒に、水晶が濁ってきているでしょう、光が見えるのも今のうちだけですよ」


偽物が蒼白になり、目に手をやった。


「ディーターですら知らない私の身体の部分について、くまなく味わったことのある者が何人もいます。連れてきましょうか? そこまであなたが模しているというのなら、逆に見せていただきたいものですけれど」

「なんだ貴様は、なぜ…」

「なぜわかるのか、ですか?」


長い指が優雅に動き、ローブの頭巾をうしろに跳ねのけた。

艶やかな、見事な茶色の巻き毛が弾むようにこぼれ出て、肩に落ちる。

息をのむほど美しい青年が、微笑んでいた。


「クラウスは、この私だからです」


* * *


「ジャン・ミュイ・アブリッド。騎士団から近衛兵に上がる試験に落ち、腐っていたところを王妃に拾われたつまらない男ですよ」


王城の鍛冶屋の片隅に腰かけ、筋骨隆々の鍛冶師が鉄を打つのを眺めながら、「ふーん」とルビオは相づちを打った。
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