気高き国王の過保護な愛執
「おれが日記に書いてた、あの男か」

「ええ、まさしくあの男で…つぁっ!」


隣に立っていたクラウスが、いきなりルビオの顔を拳で殴ったので、フレデリカはびっくりした。


「ルビオ!」


椅子から転げ落ちたルビオは、顔を押さえて声をあげた。


「いってーっ!」

「あんな程度の男を、私と思い込み、あろうことか信じきってそばに置くなど…それも一年間も! バカですかあなたは!」

「記憶がなかったんだよ!」

「そうだとしても、まず違和感を抱くべきだったのは、あなたですよ。なにをやっているんですか、情けない!」

「おれだって情けないと思ってる。だが、そうは言っても…」


げんなりした顔をするルビオに、今度はがばっと抱きつき、クラウスは悲痛な泣き声になる。


「私がどんな思いで見ていたと…許せない! 私のディーターを! あんな男、投獄なんて生ぬるい、石臼で粉になるまで挽いてやればよかったんですよ!」

「怖いこと言うなよ」


自分と同じくらい背丈のある男に抱きつかれ、鬱陶しそうにしながらも、ルビオはぽんぽんと友人の肩を叩き、なだめた。


「おれはもう、人が死ぬのはこりごりだ」


死闘から一夜明け、本物のクラウスはローブを脱ぎ、再び王の忠臣に戻った。

フレデリカは、つい先日までクラウスだと思っていた人物を、本物と重ねてみる。本当によく似ているのだ、顔立ちといい身体つきといい、そっくりだった。

だが本物の美貌は別格だ。本人も自負している通り、これは道を歩けばぱたぱたと女が倒れるだろう。

あくまで容貌の話、だが。

こういう感じの人だったのね…。

驚きが大きすぎて、いまだに受け止めきれない気分で、フレデリカは王とその忠臣を見つめた。
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