気高き国王の過保護な愛執

最後の戦い



はあーっとため息をつき、フレデリカは首を回し、肩を揉んだ。


「どうしたの、やってあげよっか」


三角比を使って、塔や塀の高さを計算していたイレーネが、飽きたらしく棒や三角定規を放り出し、フレデリカの肩を揉みだす。


「あー…いいです、そこ」

「ちょっと、おばあさんみたいになってるわよ」

「あちこち痛くて」

「"モウル"のせいね」


暖炉の裏から、換気口のように曲がったり上下したりしながら、驚いたことに二階層も下の部屋の壁に繋がっていた、あの穴のことだ。


「"モウル"とは、なんなんです?」

「言っちゃえば、いざというときに脱出するための穴よ。構造がわかっていれば、穴の先にいる人間に声も伝わるわ。王城の中でも本当に限られた人間にだけ、口伝で継承される、秘密の抜け穴よ」

「なぜあんなに狭いのでしょう」

「追ってこられないようにしたからよ。おじいさまは小柄な方だったの。彼に合わせてぎりぎりの幅で造ったのね。リッカが兄さまを拾ったとき、簡単な上下の衣服しか身に着けてなかったと言ったわね?」

「ええ」


フレデリカは、川岸で倒れているルビオを見つけたときのことを思い出してみる。そういえば、ルビオが城で常に身に着けているはずの、防具もマントも剣も、持っていなかった。


「身に着けたままじゃ通れないから、脱ぎ捨てたのよ。かわいそうに、どれだけの覚悟だったのかしら」


イレーネの先導があってさえ、あの暗く細く、どこまで続くのかまったくわからない通路を這って進むのは、相当な恐怖だった。

追われながらあの穴に飛び込んだルビオの心境を思うと、胸が痛くなる。


「モウルは庭や、城壁の外に繋がっているものもあるわ。複雑に入り組んでるから、迷い込んだまま出られなかった人間の骨が転がってたりもする」

「ええっ!」

「そこがスリルなのよ。私はモウルには詳しいの。小さい頃から糸を使ってね、それを手繰って何度も出入りして、構造を覚えたわ」
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