気高き国王の過保護な愛執
イレーネと別れ、鍛冶場に用事があって来たフレデリカは、すぐ近くで剣が打ち合う音を聞いた。
騎士団の練習場はもっと遠くのはずだけど、と木立から顔をのぞかせたとき、人とぶつかりそうになった。
「あっ、すみません」
「リッカ、なにやってるの、こんなところで」
ぽかんと見上げた相手は、ルビオだった。
袖のない、ざらっとした麻の服に胸当てをつけ、全身から汗を垂らしている。
そして手には…。
「あ、これは練習用の模擬剣だから、刃は入れてないよ、大丈夫」
言いながら、手にした剣を軽々と振ってみせる。むき出しの腕が、濡れて光っている。
「…練習?」
「そう、あの後、あちこち痛くなってさ。すっかりなまってたことに気づいて、鍛え直してもらってるところ」
フレデリカは、私も痛い、と言いそうになったが、ただ穴を這っていたフレデリカとルビオでは、酷使の度合いが違うと思い、控えた。
「鍛冶場に来たのかい?」
「そう、鍛冶師さんが腰を痛めてるって聞いたから、いい湿布を持ってきたの」
「着々と顧客を増やしてるね」
ルビオは笑い、手桶の水で布を絞って、首や顔を拭いた。フレデリカは、その無頓着な粗い仕草に、ぎくっとしたのは胸にしまっておくことにした。
「練習、見ていっていい?」
「いいけど、ぼくが絞られてるところを見たいなんて、変わってるね」
「ルビオが剣を使えるなんて、知らなかったんだもの」
「ぼくも知らなかった」
あはは、と軽く言ううち、フレデリカの目の輝きに気づいたんだろう、意味ありげに眉を上げ、微笑みを浮かべる。