気高き国王の過保護な愛執
「どうやら、惚れ直させちゃったかな?」


嫌らしく顎の下をくすぐる指から、埃と鉄と革の、野性の匂いがする。フレデリカは目のやり場に困り、ふくれた。


「そうね、編み物よりは感心したわ」

「なんでもやっておくもんだなあ」


ルビオの汗の匂いが近づいてくる。唇が触れる直前、ルビオがぐえっと呻いた。


「ゲーアハルト様がお待ちです」


華奢な片手で、がっちり首根っこを締め上げているのは、金髪の少年だ。いや、女性だ、とフレデリカは身体つきで判断した。

そして気づいた。長かった髪がばっさり切られているが、これは広間で護衛兵と戦っていた女性だ。すなわち暖炉の中のフレデリカたちを助けた人物。

ルビオが引きずられていく。


「ちょっ…いいだろ、休憩くらい」

「もう十分休まれましたよね? ゲーアハルト様はお忙しいんです」

「ええ…見逃してあげたの、おれなのに、なんで向こうにばっかり服従なの…」


心底不服そうな声に、もしかしたら、王妃が差し向けた刺客というのも彼女か、と察した。すると彼女は、あのときすれ違った侍女か。

フレデリカはいろいろと察し、とりあえずふたりに「がんばって」と声をかけた。

ルビオが手を振り、女性が手を胸に当て、王国式の敬礼をする。

鍛冶師に湿布の使い方を教えたら、練習を見に行こうと決めた。




その数日後、先王と第一王子の遺体が見つかった。

クラウスが見つけ、夜半にルビオを呼びに来た。ちょうどフレデリカがルビオの部屋にいたときで、三人は国王が謁見の際に使う、小振りの広間へ向かった。


「モウルの中で…」

「城の外は、手を尽くして探したのです。人体は、隠れて処分するにはなかなか厄介な代物だ。焼いても溶かしても痕跡が残る。そんなものはなく、であれば城の中だろうと踏んでいました」
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