気高き国王の過保護な愛執
広間の、王座の背後の壁を、クラウスがなにか複雑な手順で触れると、文様のひとつがぼこりとへこみ、横に動かせるようになった。
蓋の役目をしていたその石を動かすと、人ひとりが腰をかがめてぎりぎり歩ける幅と高さの横穴が現れ、白骨化した遺体がふたつ、衣服の重さに耐えかねたように膝を折って崩れていた。
ルビオが床に片膝をつき、上半身を穴に入れ、なにかを手にして出てくる。
「これ…」
「先王の聖書ですね。間違いなくおふたりでしょう」
革の表紙の、厚い本を見たクラウスがうなずいた。
死の直前まで語り合っていたのかもしれない、白骨ははす向かいにお互いのほうを向き、狭い通路で足を縮めている。
ルビオは痛ましそうな顔つきで、彼らをじっと見つめていた。
「弔ってさしあげたいが、もう少し先になるか」
「使われた毒の成分がわかるようなものが残っていればと思ったのですが」
「これではな…」
胸もとに手をあて、ルビオは目を閉じた。鎮魂の祈りだ。
彼の背後で、フレデリカも同じようにした。遺体が見つかったとはいえ、はたしてどんな切り札になり得るだろうか。
「兄上の顔が思い出せない」
ルビオが穴の中を見つめたまま、ぽつりとつぶやく。
「肖像を探したんだが、十五歳のときのしかなかった」
「いずれ思い出します」
「父上も…身体を壊す前の姿しか…」
「彼もそのほうがお喜びですよ。ねえディーター、彼らはどう見ても、最期のときを悟り、自らここへ来たのだと思います」
そこの経緯にはじめて思い至ったのだろう、ルビオがはっと顔を上げる。
「王妃も彼らを探していたはずです。なのにこれまで見つけられずにいたということは…」
「母上は、モウルの存在を知らない?」
「本来であれば、嫁いできた妃に継承するのは先王の役目。しかし先王は、この平和な時代に知る必要のないことと考えたか、あえて教えなかったか…」
蓋の役目をしていたその石を動かすと、人ひとりが腰をかがめてぎりぎり歩ける幅と高さの横穴が現れ、白骨化した遺体がふたつ、衣服の重さに耐えかねたように膝を折って崩れていた。
ルビオが床に片膝をつき、上半身を穴に入れ、なにかを手にして出てくる。
「これ…」
「先王の聖書ですね。間違いなくおふたりでしょう」
革の表紙の、厚い本を見たクラウスがうなずいた。
死の直前まで語り合っていたのかもしれない、白骨ははす向かいにお互いのほうを向き、狭い通路で足を縮めている。
ルビオは痛ましそうな顔つきで、彼らをじっと見つめていた。
「弔ってさしあげたいが、もう少し先になるか」
「使われた毒の成分がわかるようなものが残っていればと思ったのですが」
「これではな…」
胸もとに手をあて、ルビオは目を閉じた。鎮魂の祈りだ。
彼の背後で、フレデリカも同じようにした。遺体が見つかったとはいえ、はたしてどんな切り札になり得るだろうか。
「兄上の顔が思い出せない」
ルビオが穴の中を見つめたまま、ぽつりとつぶやく。
「肖像を探したんだが、十五歳のときのしかなかった」
「いずれ思い出します」
「父上も…身体を壊す前の姿しか…」
「彼もそのほうがお喜びですよ。ねえディーター、彼らはどう見ても、最期のときを悟り、自らここへ来たのだと思います」
そこの経緯にはじめて思い至ったのだろう、ルビオがはっと顔を上げる。
「王妃も彼らを探していたはずです。なのにこれまで見つけられずにいたということは…」
「母上は、モウルの存在を知らない?」
「本来であれば、嫁いできた妃に継承するのは先王の役目。しかし先王は、この平和な時代に知る必要のないことと考えたか、あえて教えなかったか…」