気高き国王の過保護な愛執
「おれは、衝撃を与えて黙らせたいわけじゃない。すべてを話すと約束したうえで、あの場に立ちたい」

「もちろんです。群衆の中からあなたに向けて矢が飛ぶような事態は避けたい」


フレデリカが王の執務室に入っていったとき、ふたりは図面を机に広げ、計画を練っていた。

ルビオが顔をしかめる。


「嫌なことを想像させないでくれ」

「そんな目にはあわせません、と言っているのです」


肩を叩いてなだめ、クラウスはフレデリカに笑いかけた。


「お帰りなさい。"窓"の様子はどうでした」

「不穏でした、想像通り」


あの広場の塔は、王家の人間が国民の前に顔を見せる際に使われる場だ。戴冠式や婚姻、誕生日といった式典の際には、塔が花で覆われ、バルコニーに立つ王族をひと目見ようと、広場が人であふれ返る。

王都の民たちは"お目見えの塔"と敬意を込めて呼んでいる。王族側が謙虚に"窓"とだけ呼ぶのを、フレデリカははじめて知った。

ルビオが王位についてからは、一度も使われていない"窓"だ。

今日見てきた殺伐とした雰囲気は、口で伝えようにも伝えきれない。フレデリカは肩をすくめ、返事に代えた。


「窓に立つ日は、決まったんですか?」

「ええ、月の終わりに」


フレデリカはすぐに察した。


「エキノクス・ディね」

「さすがですね。昼と夜の長さが等しくなるこの日、王都では祭が行われます。祭の最後を、王が締めくくります」

「王都の外からも人が入るのでは? 警護が難しくなりませんか」

「そこが狙いです。例年でも王都がはち切れそうなほどの人の流入がある。王妃が暴動を起こそうとしても、それだけの人を配備する余地もないでしょう」


好戦的な作戦に、フレデリカは不安をあおられ、ルビオを見た。

彼はなにひとつ心配ごとなどないといった顔で、にこりと笑った。
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