気高き国王の過保護な愛執
ルビオ
「兄さまが!?」
「はい、地下牢にモウルが届いていないというのは、本当ですか」
イレーネは爪を噛み、「本当よ」と悔しげに言った。
ルビオが投獄されるとクラウスはすぐさま、フレデリカをイレーネのもとへ走らせた。
『イレーネ様に、ディーターの私室にいていただくのです。あなたも一緒にいてください』
『はい』
王妃が必ず部屋の捜索に来て、ルビオに都合の悪いものをさらっていくと彼は予想し、それは的中した。
ノックもなく、鍵穴に鍵が差し込まれる音がした。
敬意のかけらもない態度で入ってきたふたりの憲兵が、室内のイレーネたちを認めるとぎょっとして、慌ただしく敬礼する。
「失礼いたしました、これからこちらのお部屋を…」
「帰れ」
イレーネがルビオの椅子に深々と腰かけ、毅然と言う。隊員たちは戸惑いぎみに、「しかしながら…」と口ごもった。
「その、王妃殿下よりご命令が」
「王妃殿下がどうした」
空色の瞳が、ぎょろっと動いて彼らを睨んだ。
二名の隊員は、はっと背筋を正し、もう一度敬礼して出ていった。
フレデリカは、詰めていた息をほーっと吐いた。
このいたずらな王女は、王位継承権でいえば現在第二位。そもそも継承権を持っていない王妃とは、本来並べられる地位でもないのだ。
それを思い出させた、見事な振る舞いだった。
「さすがです、イレーネ様」
「べつになんの意味もないわよ、こんなの。その場その場で、あいつらが私と王妃のどっちを怖がるかってだけの違いだわ」
勝手に引き出しを開け、インク壺と羊皮紙を取り出して落書きしている。