気高き国王の過保護な愛執
そう、継承権でいえば王妃は敵ではない。だが王妃の厄介なところは、いざとなればいつでもカスパル王子に、思った通りのことを言わせられるところにある。

第一継承者である、カスパル王子に。

そこにクラウスが入ってきた。書籍と紙の束を抱えている。


「憲兵隊とすれ違いました。殿下、ご苦労様でしたね」

「まあね。なにを持ってきたの?」

「執務室に置いていた、ディーターの私物です。見られて困るものではありませんが、さわられても気分が悪いのでね」


言いながら手早くそれらを棚に収めていく。イレーネは頬杖をついてそれを眺めた。


「兄さまの様子はわからないの?」

「残念ながら」

「ゲーアハルトには伝えた?」

「ええ」


言葉少ななクラウスから、偽りでない緊張を感じ取ったのだろう、イレーネが黙る。

フレデリカは無力感にさいなまれ、それを見ていた。

地下牢がどんな場所か、知識では知っている。あんなところで四日も過ごしたら、それだけで身体を壊せる。

おそらくルビオも、王妃の狙いに気づいている。出される食事は口にしないだろう。


「ルビオ…!」


思わず呼んだ名前は、口からこぼれた。

クラウスとイレーネが、同時にこちらを向く。恥じ入ったフレデリカの肩を、クラウスが優しく叩いた。


「思っていてあげてください。"思い"の力は、存外に強い」

「クラウス様…」


そのとき、フレデリカの指が、机の上のなにかに触れた。

聖書だ。先王が最期の場に持ち込んだもの。

ルビオがこれを自室に持ち帰っていたことに、家族から顧みられなかった彼の、孤独で一方的な思慕を見た気がして、目の奥が熱くなる。
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