気高き国王の過保護な愛執
「私を呼ぶ声が聞こえたようだけど」


三人は、はっと背後を振り返った。

そこには王妃が、供を連れて立っていた。暑くもないのに、これみよがしに羽根の扇で顔をあおがせ、妖艶な後れ毛を揺らしている。


「出たわね、この…」


なにかとんでもないことを言いかけたイレーネの口を、フレデリカはさっと塞いだ。


「残念ね、陛下は『やっていない』の一点張り。でも"やっていない"ことの証明は、案外難しいのよね」


誰も言い返さないのを確認し、満足そうに微笑むと、、王妃は城の中へ戻っていった。


「リッカ、言わせなさい…」


文句を言おうとしたイレーネは、フレデリカを見上げ、ぎょっとした。


「ちょっと…顔、ものすごい怖いことになってるわよ」

「あたり前です」

「あたり前って…」


そこに、風が草木を揺らすような気配があり、気づくとゲーアハルトがすぐそばに立っていた。


「陛下の法廷への護送が今晩ございます」

「護送って…、明日ではなく?」


クラウスが驚きの声を発する。大臣はかすかにうなずいた。


「用心深い陛下に手を焼き、少しでも早く孤立させたいのだろう」


フレデリカの胸は騒いだ。王立書院からの急使が戻ってこない。届けるのが遅れたのか、さもなければ…。


「ガヴァネス殿! あなた宛ての書簡でございます」


はっと渡り廊下に顔を向けると、ひとりの使用人が手を振っていた。フレデリカは駆け寄って、書簡を受け取り、その場で開いた。
< 164 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop