気高き国王の過保護な愛執
王妃は黙った。

ルビオは自分の眉根が寄るのを感じた。どうやらこの話題が核心らしい。だがなぜ日付が核心なのか、見当がつかない。

フレデリカが手に持ったなにかをなでながら、「私の推理をお話ししますね」と少し声を落ち着かせた。持っているのは、父王の聖書だった。


「ディートリヒ王子が目撃した毒の投与は、失敗しました。実際は王子が行方不明になってから、先王と第一王子は、数日の間お元気だったのです。もちろん先王は、体調の許す範囲の中で、ですが」


自分の言葉が王妃に伝わっているのを確認し、フレデリカは続ける。


「あなたはそれを城内に知られるわけにはいかず、捜索隊を出せなかった。毒を盛るよう指示した本人が、実行より先に消えてしまうなんて、おかしいですものね。一方ジャン・ミュイは、成り代わったまま次の機会を狙っていた」


ルビオははっとした。そういえば、なぜだろうと思っていた。フレデリカも彼の視線を受け止め、うなずいてみせる。


「妙だと思ったのです、彼がクラウス様を演じ続けるのは危険でしかない、なぜそうまでして続けたのか」


そうか──…。

青い小瓶を"手にしていた"ジャン・ミュイ。ルビオに気づき、振り返り…"敷地のはずれで矢を射った"。

踏まれて土に埋まっていた小瓶。"敷地のはずれ"で!


「それは、成功していなかったからです」


あのとき、まだ毒は入れられていなかったのだ。ルビオが見てしまったせいで、計画を中断せざるを得なかった。そしてジャン・ミュイは小瓶を落とした。

今度はクラウスが語り出した。


「やがて次の機会が訪れ、毒が盛られ、ここで初めて騎士団と憲兵隊を合わせた捜索隊が出されました。王子の犯行だとあなたが言えば、疑う理由はない。あなたにとって重要だったのは、このときすでにディーターが城に"いなかった"事実を隠し通すことです。おっしゃいましたね、"ない"ことの証明は難しい。だからあなたは安心していた」


じっと黙秘する王妃を、楽しそうな目つきで見つめる。


「と、お思いだったのでしょうが、残念」


ぽんと肩を叩かれたフレデリカが、聖書の表紙を王妃に向けた。
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