気高き国王の過保護な愛執
それにあの時点ではルビオの機能なんて知らなかった、といらない言い訳までしそうになり、飲み込む。


「おや、ご存じでしたか、それはそれは」


しらっとお茶を飲むクラウスが憎らしい。


「イレーネ様が、陛下のお子を望んでおいででしたよ」

「その前に結婚しなきゃ」

「その前に申し込みです」

「その前に今日の大舞台をこなさないと」


複雑な心境で聞いていたフレデリカの手を、ルビオがいきなり握り、にこっと笑いかけた。


「もう少し待っててね。まずは今日、ぼくを見てて。ちゃんとやるから」

「は…え?」


フレデリカは話がつかめず、うろたえる。

クラウスが友人に、冷ややかな目つきを送った。


「全然脈なしじゃないですか」

「え…そんなはずないんだけど」

「身分が気になるようでしたら、ウーラント家に爵位を戻しましょうか? 女性の侯爵は今いませんから、人気が出るかもしれません」


フレデリカはようやく、なにを言われているのかわかった。


「あの、でも、私は…爵位があったところで、ただのガヴァネスで…」

「平和な国を舐めてはいけませんよ。今のテルツィエールは、他国と姻戚を作ってまで強くなる必要がありません。王であろうと誰であろうと、好きな相手を伴侶に選べるのです。まあ相手から来ることはありますけどね」

「ぼくの本当の母上は、父上の舞踊の先生だよ」

「そうなの!」

「先王は形式を重んじる方でしたので、一度母君を爵位のある家の養子にし、そこから嫁がせました。ですがいらぬ手続きです」


あっけにとられるフレデリカをよそに、ルビオとクラウスは天気の話に移っている。今年の麦はどうかな、などという話を聞きながら、フレデリカは、これからなにが自分を待つのだろうと、想像することすら難しかった。

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