気高き国王の過保護な愛執
そろそろ行こうかな、とルビオが言い出したので、フレデリカは王城を出た。
王城と"窓"は、特別なときだけ開けられる地下通路で繋がっており、ルビオたちはそこから行き来できる。
フレデリカは表からはね橋を渡り、広場に走った。
なんとしても、市民の側から王としてのルビオを見たかったのだ。
「先生!」
人混みの中に、見知った顔を見つけ、走り寄った。眼鏡を鼻にのせた黒のローブ姿の教授が、振り返って相好を崩す。
「フレデリカくん」
「いらしていたんですね」
「王立と名のつく機関で研究をさせてもらっておいて、王を直接讃えることのできる機会に、辺境の町にいるなんてできんよ」
「先日は急な話にご協力くださって、ありがとうございました」
「いやいや、大変だったのは地質学と植物学の奴らだから。王城の糸切りスミレなんて、なかなか見る機会がない。僕はただ得してしまった」
「今度お礼に参ります」
そのとき、ざわめきが静まった。
"窓"のバルコニーに近衛隊が現れたのだ。広場は静まり返り、みな固唾をのんで顔を上に向けている。
「これまで王は不在だったと僕は思うんだよ」
「え」
「王は即位していればいいというものではない。人の心に存在しないと、意味がない」
痛いほどの静寂の中、バルコニーの両端に立つ近衛隊員が、剣を捧げ持った。奥の幕が割れ、人影が現れる。
バルコニーの石の手すりのおかげで身体は隠れ、金色の髪だけが見える。
花火の煙がちょうどよく流れるくらいの、心地よい風に揺れる髪。
ゆっくりと歩みを進め、バルコニーの端までやってくると、王の姿は広場のすべての人間から見えるようになった。
西に傾き始めた陽光を受け、光り輝く髪。美しい顔立ちの中で、ひと際目を惹きつける、神秘的な色の瞳。
そしてなにより、マントに包まれた伸びやかな体躯から、溢れんばかりに立ち上る若い香気が、観衆を恍惚とさせた。