気高き国王の過保護な愛執
腰を上げかけたフレデリカの手を、「冗談だよ」とルビオが掴む。

そのまま引っ張られ、身体を起こしたルビオの胸に倒れ込む形になった。


「ぼくは死ぬまで王だ」


フレデリカを胸に抱き、ルビオが静かに言った。

いつもより確実に高いルビオの体温と、汗の匂い。

フレデリカは耳を澄ましながら、心臓が鳴るのを感じていた。


「誰にも代わってもらえない。生きている限り、ぼくだけが王だ」

「ルビオ…」

「リッカがいないとダメだ」


両腕で、きゅっと優しく抱きしめられる。目の前にルビオの首筋がある。

枕元の小さなテーブルには、刃の痕が生々しく残った聖書が置いてあった。


「リッカがいてくれたら、ぼくはきっと、王として立派にやっていける」

「それは、脅しね?」


ルビオが噴き出した。

身体が離れ、正面から見つめ合う。


「そうだよ、脅しだ」

「しょうもない王様ね」

「どうする? きみが嫌がるなら、ぼくは史上最低の怠惰な王になって、クラウスあたりにあとを全部任せて、田舎に引っ込んで遊び惚けるかもしれないけど」

「思いつく悪さがその程度なら、好きにしたらいいと思うわ」


ルビオの眉尻が、情けなく下がった。


「じゃあ、きみが思う、悪い王ってどんなんだい…」

「もし、万が一、私が王様のそばにいたいと思うとしたらね」


従順に耳を傾ける、この姿勢がフレデリカは好きだった。これこそがルビオの、愛される王としての資質だと思うからだ。


「王様が二度と、誰かのために泣きながら、人に剣を向けたりしないですむように」


ルビオの目が、はっと開く。


「そのためになら、そばにいると思うわ」


唇が重なった。

ひたむきな、ルビオらしい熱いキス。

ルビオが手探りでフレデリカの左手を見つけ、握った。こめかみに、頬に唇が移る。
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