気高き国王の過保護な愛執
「あっ、すまねえ」
よそ見をしていた男は、腕をぶつけてしまった女性に慌てて謝罪した。女性はにっこり笑い、背の高い男と連れ立って歩いていった。
「なにしてんの、あんた、行くよ」
「いやあ…今のふたり、知ってるか?」
「さあ、祭を見に来たよそ者じゃない?」
夕闇が迫っている。男は妻の手を取り、祭壇が組まれる、丘の上の広場を目指した。今年の篝火は特別立派な出来だ。彼を含め、村を出ていった若者たちが、少しずつ戻ってきたからだった。
「そういや、聞いたことがあるぜ。なんでもこのラ・セバーダは、王様とお妃様がお忍びで、毎年楽しみにいらっしゃるんだとよ」
「ええ? こんな田舎の祭を? 冗談でしょ」
「お前、夢がねえよ」
「まあ、そういう"ごっこ"遊びを楽しんでる、どこかのお金持ちって話なら、いくらか現実味があるかもね」
「なるほどな」
祭で浮かれる女房が、甘えてくっついてくるのに気をよくし、そんな話をしたことも、すぐに忘れてしまった。
男は祭の伝統的な装いをまとっていた。
心配そうに隣を見る。
「気をつけてよ、だから今年は休んでたらって言ったのに」
「あのね、女性の身分が高くなるほど出産が危険になるのは、簡単なことよ。運動不足なの」
はいはい、といつもの論調が本格化する前に譲歩した。
ターバンに隠れきらない、美しい金の髪が、うなじにこぼれている。ゆっくりした足取りで、人気のない道を選んで歩くふたりは、不思議とこの土地に慣れているように見えた。
「今度は男の子かな?」
「どうかしら。どちらでもいいわ、どうして?」
「つけたい名前がある」