気高き国王の過保護な愛執
「お父様」
「お前なあ、がみがみ言う声が響いてたぞ。誰だ、一緒にいるのは?」
首をかしげ、ランタンの光をルビオのほうへ向ける。ルビオの姿が照らされると、オットーは口をあんぐり開けた。
「こりゃ驚いた、どこの美丈夫かと思ったら…ルビオか」
「オットー、リッカに言ってくれ、ぼくが悪くないことで怒られても困ると」
「怒ってません!」
「それはなあ、誠に遺憾だが、母親に似て強情でな。たぶん治らん」
「え、参ったな」
「そういう態度なら私は帰るわ。あとはお父様と楽しみなさい、ルビオ」
踵を返したフレデリカを、「待てよ」と慌ててルビオが捕まえる。
「冗談だ」
「離してよ」
掴まれた腕を振りほどくと、今度は腰を抱き寄せられる。傍から見ればただのじゃれ合いのような攻防を続けるふたりを、オットーは目を細めて見た。
「いい宵をな、ふたりとも」
「お父様、お酒はダメよ!」
はいはい、と後ろ手に手を振って、大柄な姿が去っていく。後ろから羽交い絞めにするような恰好で、「酒乱かい?」とルビオが聞いた。
「父はもう長くないの」
ゆらゆらと陽気な足取りで歩き、道行くすべての人に挨拶されるオットーを、フレデリカは見つめた。
「えっ?」
「別に秘密でもないの。自分の身体のことは自分が一番わかると言って、まわりにも教えてるわ。身体のあちこちが硬くなる病で、いずれ血も巡らなくなる。お酒を飲んだら、硬くなった血の管が割れてしまうかもしれないのよ」
やがて父親の背中は、ランタンの群れに消えた。
篝火が空気をかき回し、熱風と冷風がまぜこぜに吹き付ける。ルビオの腕が、ゆっくりとフレデリカを抱きしめ直した。
「お前なあ、がみがみ言う声が響いてたぞ。誰だ、一緒にいるのは?」
首をかしげ、ランタンの光をルビオのほうへ向ける。ルビオの姿が照らされると、オットーは口をあんぐり開けた。
「こりゃ驚いた、どこの美丈夫かと思ったら…ルビオか」
「オットー、リッカに言ってくれ、ぼくが悪くないことで怒られても困ると」
「怒ってません!」
「それはなあ、誠に遺憾だが、母親に似て強情でな。たぶん治らん」
「え、参ったな」
「そういう態度なら私は帰るわ。あとはお父様と楽しみなさい、ルビオ」
踵を返したフレデリカを、「待てよ」と慌ててルビオが捕まえる。
「冗談だ」
「離してよ」
掴まれた腕を振りほどくと、今度は腰を抱き寄せられる。傍から見ればただのじゃれ合いのような攻防を続けるふたりを、オットーは目を細めて見た。
「いい宵をな、ふたりとも」
「お父様、お酒はダメよ!」
はいはい、と後ろ手に手を振って、大柄な姿が去っていく。後ろから羽交い絞めにするような恰好で、「酒乱かい?」とルビオが聞いた。
「父はもう長くないの」
ゆらゆらと陽気な足取りで歩き、道行くすべての人に挨拶されるオットーを、フレデリカは見つめた。
「えっ?」
「別に秘密でもないの。自分の身体のことは自分が一番わかると言って、まわりにも教えてるわ。身体のあちこちが硬くなる病で、いずれ血も巡らなくなる。お酒を飲んだら、硬くなった血の管が割れてしまうかもしれないのよ」
やがて父親の背中は、ランタンの群れに消えた。
篝火が空気をかき回し、熱風と冷風がまぜこぜに吹き付ける。ルビオの腕が、ゆっくりとフレデリカを抱きしめ直した。