気高き国王の過保護な愛執
逃げまどう人々、綱を次々断ち切られ、宙に舞っては地面に落ち、炎を上げるランタン。その炎をものともせず、踏みしだいて広場を闊歩する馬。馬上には闇に溶ける暗色のマントを羽織った人影が載っていた。

そしてその後からも一頭、また一頭と、丘の下から騎馬が姿を現す。岩肌に刻まれた、あの狭い、急な階段を上ってきたのか、とフレデリカは驚愕した。

訓練された馬は、炎に怯える様子も見せず、悠然と広場を進む。馬上の人間が、邪魔だとばかりにランタンの綱を剣で断ち切っていく。刃が篝火を反射してぎらりと輝いた。

階段への入り口に一頭がいるため、広場の人々は下りることができない。先頭の人馬は、人々の混沌には関心を示さず、ぐるりと首を巡らすと、蹄の音を重く響かせ、フレデリカたちのほうへやってきた。


「きゃあ!」

「リッカ!」


ふたりの眼前のランタンが、綱と共に弾け飛ぶ。フレデリカの上に落ちてきたひとつを、ルビオが手で叩き落とした。

獣の気配と、馬具の革の匂い、金具の音。馬が低くいななき、蹄の音が止まる。

そびえ立つような漆黒の馬体がフレデリカの視界を塞いだ。目を疑うほど見事な青毛だ。


「殿下」


馬上から滑り降りてきた人物が、ルビオの前に跪いた。


「え…?」

「お探ししました」


地面で燃え上がるランタンが、黒いマントを照らす。深みのある声から、オットーと近い世代の男性とフレデリカには思われた。

ルビオは戸惑い、言葉もない。

男性が顔を上げた。ルビオを見つめる表情が、篝火の灯りに浮かび上がる。灰色の眉の下から鷹のような目が覗く、静かな凄みをたたえた男だった。左の眉を斜めに切り裂く傷痕が、目に焼き付いた。

彼が目線をちらっと左右に配っただけで、さっと暗がりをなにかが移動し、気づけばルビオは両腕をそれぞれ、鎧を付けた兵士ふたりに取られていた。


「やめろ、ぼくは…」

「お連れしろ」

「お前たちは誰だ」


抵抗など頭から無視され、問答無用で連れ去られていく。
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