気高き国王の過保護な愛執
足首まで隠す黒いローブを羽織った教授が、フレデリカが机に広げた本を覗き込んだ。知性的なしわに囲まれた茶色い目が、だんだんと見開かれ、輝きだす。


「同じ人物だと言うのかね?」

「それを否定する要素は、今のところないんです。時期も場所も人物像も、所持していた宝石まで一致しています。この筆者がでたらめを書く理由もない」


からくり人形のような動きで椅子に座り、本に鼻を突っ込んで別の世界に入ってしまった教授に、フレデリカは「今日はもう失礼します」と声をかけた。


「院長に呼ばれておりまして」

「そうか、明日もよろしく頼むよ」


手をひらひらさせただけの挨拶に、膝を折って応え、フレデリカは僧院へと急いだ。土の色に染められた麻のローブをたくし上げ、頭髪を覆い隠すウィンブルの裾を翻し、街の中央部に見える石造りの塔を目指した。




「フレデリカです」

「お入りなさい」


院長の個室には、めったに入ることはない。呼ばれた理由に首をひねりながら、フレデリカは中へ入った。

机の上で手を組み合わせた院長が、口元を微笑ませる。


「王立書院での評判は聞いています」

「恐れ入ります」


続き部屋に向かって、院長が「どうぞ」と呼びかけた。姿を見せたのは、丈の短い黒いマントを肩に留めた、旅装の若い男だった。どこかの使いだ。

男は懐から書簡を取り出し、中身を広げてフレデリカに見せた。一瞬で再び丸められてしまったが、記されていた紋章がはっきり見えた。

黒地に黄金の獅子。

国章である、赤地に黄金の獅子の紋章とは異なる。それなら王立の機関で働いていれば、頻繁に目にする。黒い背景が意味するものは、"国"ではない。

国王の血筋を擁する"王家"だ。

フレデリカはわけがわからず、院長を見た。


「あなたを王女の教育係に招きたいとのことです」

「王女…」

「先王のご息女、イレーネ殿下です」


テルツィエール・ボーデンは今、即位して一年にも満たない、若い新王が統治している。先王の逝去の報はあまりに急で、国に衝撃を与えた。

王の妹姫にあたるイレーネ王女は、確かまだ十歳ほどだったはずだ。
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