気高き国王の過保護な愛執
とはいえそれも十日も続くと、心が折れる。
フレデリカは、尼僧院から王都への道中で、王女に教えようと歴史、科学、物理などあらゆる分野の本の手配を使者に頼み、そのすべてが王城内の図書館にあると知って喜んだときのことを思い出した。無邪気な自分が懐かしい。
王女の気配を追って、厩舎のあたりを歩いていたときだった。
「いわくつきの王」
そんな言葉が耳に飛び込んできて、フレデリカは足を止めた。さっと物陰に隠れ、耳を澄ます。会話の主は、訓練の休憩中の騎士のものだった。
「だって誰も遺体を見ていないんだろう?」
「どう考えたっておかしいよな。侍女のひとりが、人が変わったようだって言ってたのも気になる」
「その侍女ってのはもしや、例のお前のいい子か?」
そこからは男同士のやりとりになってしまったので、フレデリカはそっとその場を去った。
わかり始めてきていた。この王城全体を包む、不穏な気配の正体。
どうやら先王と兄王子の死に、謎がある。
ルビオ。いったいあなたは、どんな立場に置かれているの。
謁見以来、彼の姿を見かけたのは一度だけだ。回廊を足早に横切る姿を、別棟の図書館から見かけた。
ひとりきりだった。会ったときと同じ、漆黒の衣装に身を包み、緋色のマントをはためかせていた。
春の花が咲き乱れる庭に見向きもせず、廊下の端に寄って頭を下げる城内の人間にも、ちらりとも目を向けず、塔へ消えていった。
全身から孤高の匂いをさせていた。
「ルビオ…」
「リッカ」
呼応するように名前を呼ばれ、しかもそれが懐かしい愛称だったのでフレデリカは混乱し、立ち止まった。オットーがいなくなってから、彼女をそう呼んだ者はいない。
きょろきょろと見回す。考え事をしながら歩くうち、ばら園に迷い込んでいたらしい。つるばらが今にも花開きそうに、アーチ状の支柱に絡みついている。
声がしたのは、こっちのほうからだったか。
様子を探りながら、頭の高さを越えるばらの木の並びに足を踏み入れた。