気高き国王の過保護な愛執
「リッカ」


今度はすぐ近くから声がした。


「誰?」

「ぼくだ」


フレデリカが片手をかけていた、まさにその木の向こうから、ふっと人影が姿を現した。

黒い服。緋色のマント。

国王だった。

フレデリカはお辞儀をするのも忘れ、立ちすくんだ。手を差し伸べれば届く距離だ。すらりとした長身が、緑の中に佇んでいる。

その顔が照れくさそうに微笑んだ。

フレデリカの胸の中で、なにかが破裂したように、思い出が押し寄せてきた。


「ルビオ…?」


尋ねた声は震えていた。聞くのが怖くもあったのだ。

だが向こうは、その名前を聞くと、顔をほころばせた。


「そうだよ、ぼくだ」

「ルビオ!」


胸に飛び込んだ。長い腕が、待ち構えていたようにフレデリカを抱きしめた。


「信じられない、本当にルビオなのね、本物ね?」

「ぼくのほうが信じられないよ。なんでリッカがここにいるの」


青灰色の瞳で、優しくフレデリカを見つめ、ルビオは指で頬をなでる。ところがフレデリカが答えようとしたとき、「しっ」とその指で唇を塞いだ。


「今晩、部屋に呼ぶ」


周囲に誰もいないことを確かめるように視線を走らせ、小声で素早く言う。

それって…。

フレデリカの表情が一気に冷ややかになったことに気づいたんだろう、急におろおろしだし、「へ、変な意味じゃないよ」と弁解してから、真面目な顔に戻って「クラウスを呼びにやる」とささやいた。


「名前は呼ばない。誰かに聞かれると困るから。黙ってついてきて」

「わかったわ」


ルビオはフレデリカの目を覗き込み、にこっと笑う。

そして次の瞬間にはもう、姿を消していた。

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