気高き国王の過保護な愛執
そっと扉が叩かれた。
耳を澄ましていなければ気づかなかったであろう、かすかな音で。
服のまま寝床に入り、ろうそくもつけずじっとしていたフレデリカは、さっと飛び起きて、わずかに開けておいた扉からすべり出た。
人に会いづらい経路を選んでいるんだろう、クラウスは黒い覆いをかけた燭台を手に、城内を複雑に歩く。
やがて両開きの扉の前にふたりはやってきた。クラウスはそれを開け、中に入る。フレデリカも後に続いた。入った先は控えの間だった。奥にさらに扉があり、ごく狭い空間を挟んでまた扉。
クラウスはノックもせずに、それを開けた。ゆったりとした椅子に身を沈めていたルビオが、飛び跳ねるようにして立ち上がり、まっすぐフレデリカのほうへやってきた。
「リッ…」
「私の存在を忘れないように、陛下」
すかさず飛んだクラウスの忠告に、両手を広げていたルビオは、所在なくその手をたたみ、一応、といった感じでフレデリカの肩に手を置いた。
じろっとクラウスを睨み、すねた声を出す。
「邪魔するな。こんなところで、いきなり変なこと始めたりしない」
「夜+私室+女性+陛下で弾き出される答えは、朝寝坊と甘い倦怠ですよ」
「ぼくはそんな男だったのか」
「冗談です」
フレデリカはふたつの事柄に驚いていた。
ひとつはクラウスとルビオの、友達のような関係。もうひとつは、ルビオの記憶が戻っていないことだ。そしてそれをクラウスも承知していること。
ふたつじゃなく、みっつだったわ、と心の中で訂正しながら、「失礼ながら、おふたりの関係は?」と尋ねた。
「私は陛下の、友人を自負しております」
クラウスが美しく微笑む。
「私の母が、陛下の乳母でした。私と陛下…ディーターは兄弟のように育ちました」
「ということは…」と視線を移した先で、ルビオがうなずいた。
「ぼくが記憶をなくしていることに、真っ先に気づいたのがクラウスだ」
なるほどね。
フレデリカは納得し、同時に安堵もした。すべてを知った上で、こうしてそばにいてくれる味方が、ルビオにはいるのだ。